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▽黄泉から少年へ
課題の為に向かった合戦場で伊作はあちらこちらに落ちている怪我人の手当てばかりしていたので当然の様に成績は酷いものだった。それですらお人よしと周りから馬鹿にされるのに、まだ手当ての必要な者がいるからと伊作はその次の日も次の次の日も包帯と薬を背負って山に入っていた。そうして合戦場を歩き尽くすと、また別な用事で通りかかった合戦場で怪我人を見つけては何日も通うのである。
もう何年か続けているそんな日々のある一日のことである。
伊作は真っ暗闇の山中を下っていた。その日も伊作は山の中で負傷兵など見つけては手当てを施していたのだが、薬も包帯も尽きて帰る時分にはすっかり日が落ちてしまっていた。その日は分厚い雲が空を覆い僅かの月明かりも射さない曇天で、さらには激しい雨も降り始めて伊作はすっかり難儀してしまった。
右も左も黒い闇に覆われて最早何処をどう歩いているのかも良く分からない。
忍びたるもの暗闇を怖がったりはしないものだが、ざあざあという雨が地面を叩く音と黒いばかりの気色に囲まれているとどうにも心許ない感じがした。ふらふらと帰り道を探している伊作はぬかるんだ地面に足を取られてもう幾度も斜面を転げているので擦り傷だらけで、口の中に広がる泥と血の味になんだかもう泣いてしまいたいような気になっていた。
「嗚呼、ついてない」
伊作はひとりぽつんと呟いたのだがその声も激しい雨音に飲まれて自分の耳にも届かない。伊作は身震いした。
「もう嫌だ早く帰りたい」
寒さやらなにやらで愚図ついてきた鼻を啜り上げ、伊作は一寸先も見えない闇の中に手を伸ばして辺りを探った。すると指先にざらざらした布の感触が触れた。探ってみると着物の袖らしいと知って伊作は咄嗟にそれを強く掴んだ。
「あの、誰か…?」
伊作は着物の主に声を掛けながら闇に目を凝らしたが、その先には何も見えない。着物の主に応えは無いのだが、一度伊作の肩を叩くと伊作を引っ張っていくように先へ進んでいく。置いていかれては堪らないと伊作は必死に袖をきつく掴んであとを付いていった。先を歩いている着物の主は暗闇でも目が利くのかと思うほどするすると足場の綺麗な道を歩いて行ってそこから先伊作は一度も転ばずに山を下りることが出来た。
そして幾らもしないうちに山を抜け、辿り着いたのは驚いたことに伊作の籍を置く学園の裏側であったのだ。
「ありがとう」
どうして自分がここの生徒と分かったかは知らないが、連れてきてくれたのだと知って伊作は振り向いて礼を言った。
ずっと伊作の先を歩いていた着物の主は学園の側まで来ると木々の間で立ち止まり闇の中から出てこようとしなかったので今は伊作の方が先に立っている。
伊作はもう一度礼を言って暗がりに手を伸ばして着物の袖を手繰り寄せて、その手を握ったのである。
明かりの中に出てきた手は、肉も皮も無い骨だった。
伊作はぱちりと目を瞬いた。
骨は途端にがらんがらんと音を立てて地面に崩れ落ちた。
伊作の足元には黒い忍び装束を着込んだ一揃いの骸骨が落ちている。忍び装束の懐からはくしゃくしゃに丸まった包帯が零れていて、それは伊作がいつだったかどこかだの負傷者に巻いてやったものらしい。伊作はその白い骸を見て嗚呼助からなかったんですね、ごめんね、ありがとうね、と言うようなことを繰り返し呟いたのである。
「という心温まる曰く付きのこの骸骨もといコーちゃん、僕らの部屋に入れてもいいかなぁ」
と伊作は忍び装束を着た骨格標本を見て途端に眉を寄せた留三郎に訊ねた。
「心温まるどころか怪談じゃねェか。妙な作り話しやがって。」
形の良い眉を歪めて伊作の話を聞き終えた留三郎はしかし、伊作にせがまれたままにコーちゃんと名づけられたらしい骸骨のボロボロの装束を繕ってやっている。襟元にごっそり仕舞われていた包帯を引きずり出して、留三郎はそこでさらにきつく眉根を寄せた。血文字に見える茶色く汚れた字でなにやら書かれているのである。留三郎は振り払うみたいに包帯の塊を伊作から見えない遠くへ放り投げた。
有り難う。少年へ。
「ちっ、手が込んでやがる」
「うん?」
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