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ルームメイト/(伊作と食満とコーちゃん)ホラー風味。

▽ルームメイト






 伊作は心がおかしくなったのだと留三郎は思った。
その日、学園の門の側の木に犬の死体がぶら下がっていた。その少し前には飼育小屋で飼われている虫が叩き潰されていて、それから学園の生徒が一人消えた。
留三郎には不運な伊作が犬に噛まれたことと虫に刺されたことと、それから生徒の一人に忍びへの適性だとかなんだかに言いがかりを付けられて絡まれていたことが一連の出来事と無関係とは思えない。




「なぁ、やりすぎだと思うぜ」

その晩、共有部屋を真っ二つに仕切る衝立の向こうで留三郎はとうとう伊作にそう言った。

「どういうこと」

衝立の裏で答えた伊作は疲れた声をしている。

「犬を殺したり虫を殺したり、お前だろ。…行方不明だっていうい組の奴、どこ行ったんだよ」
「酷いな、留三郎。僕じゃないよ。」

伊作の溜息が聞こえて、それから何か引き摺るような音が聞こえてくる。ずるずると大きなものを引き摺る気配と衣擦れの音から留三郎は伊作が死体を運んでいる様な図を連想して頭を抱えた。

「心配しないで、留三郎。コーちゃんがやったんだよ。」
「…なんだって?」

衝立からひょい、と頭だけ出して伊作が此方を覗いたので留三郎はぎくりとした。
コーちゃんというのは伊作が私物で持ち込んでいる骨格標本で、伊作はそれに服を着せたり語りかけたりまるで人のように扱っているのである。
留三郎はそれが人形遊びのようで微笑ましいと思っていたのだが、伊作が本気でコーちゃんが動いたり、ましてや犬を殺したりすると思っているのを知って恐ろしくなってしまった。伊作は心がおかしくなってしまったのに違いないと留三郎は思った。


「僕、コーちゃんをお風呂に入れてくるね。悪さをしてきたみたいですごく汚れているから」


伊作の言葉に留三郎は背を向けて頭を抱えて答えなかった。伊作が何かを引き摺って部屋を出て行くと部屋中に満ちていた血生臭い匂いが少し薄れた。明日の朝には教師に報告しなければならないだろう、と留三郎は思った。伊作は虫も殺せないような優しい気性だから、きっと正気でなくやったことなのだ。



「なあ、伊作」

留三郎は堪らない気になって、立ち上がり部屋の襖を開いて渡り廊下に出て行った伊作の後姿を呼び止めた。


「だから僕じゃないってば」

少し不貞腐れた様に伊作が言う側には黒い装束と白い身体を真っ赤に汚している骨格標本が手に刀を一本持っていて、留三郎を見ると首を傾けて歯を鳴らした。からんからんと音をならしながら歩いてきたコーちゃんが鞘から刀を抜き放つのを見て留三郎は笑った。

「なんだ、よかった」



とん、と刃が振り落とされた。

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