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袖引き合戦/(雑渡さん×6のは) 雑伊で雑食満で食満伊というカオス。食満格好わるい。

▼袖引き合戦
    

真夜中、人の気配に留三郎は目を覚ました。
 寝起きその他生活の場として学園の生徒にあてがわれた二人部屋の真ん中には衝立があって、その向こうには同じ組の伊作が寝息を立てている。
人の気配というのはもちろん伊作のすぴすぴいう安らかな気配では無くて、衝立の向こうに、誰かいるのだった。
留三郎はなにかあれば反応できるように注意深く、その気配に意識を傾けた。
ごそごそ、と衣擦れの音。
うぅん、と伊作の寝惚けた声が聞こえた。やがて聞こえた誰かの声に留三郎はきつく眉を吊り上げた。


「やぁ、こんばんは。くせものだよ。」


 ざらざらとした大人の声だった。留三郎はそれがここ最近伊作に目を付けているらしい他所の城の忍びだと気づいた。がばっと布団から起き上がろうとして、そのあとちょっと躊躇した。
ああなんだ、雑渡さんじゃないですか。そういう呑気な伊作の声が返ってきたからである。
あまり剣呑な感じがしないから出て行くのを躊躇ってしまう。
二、三、問答があった。笑い声も聞いた。


「それじゃあ行こうか」


 やがて潜めた声で聞こえた台詞に留三郎はぎくりとした。衝立の向こうでくせ者が伊作に手を差し伸べた。
伊作も手を取り立ちあがった…ところで衝立がどたぁん、と倒れたのである。正確にいえば身を乗り出した留三郎が衝立を押し倒したわけである。


「ぎゃん!」

 
 衝立の下敷きになって伊作が悲鳴を上げた。おやおやこれは大変とくせ者は握ったままの伊作の右手を引っぱってみて、びくともしなかったので、んん?、と首を傾げる。
見れば留三郎が、伊作の左手をしかと握っていた。


「……。」
「……。」

 ぱちくりとくせ者は目を瞬いた。留三郎は鋭い目をきっと尖らせて伊作の手を握っている。なんだかよく分からないがこのまま伊作をいかせてなるものかと思ったのである。
くせ者もなんだかよく分からないまま伊作の手を引っ張った。留三郎も引っ張り返す。それをぐいと引っ張り返すのを留三郎も引っ張り返すのをくせ者も引っ張り返して、薄い衝立を背中に乗せていた伊作はそこでまたぎゃんと悲鳴を上げた。


「あ、痛たたたたたたっ!?痛いっ、何!?なんで引っ張ってるの…痛い痛い痛いってばぁもう!」

何、何、とパニックになっている伊作の傍らで、留三郎も大混乱である。状況の良く分からないまま飛び出して、あとには引けない。がっしりと伊作の腕を組んで離さないので、くせ者も、こらこら伊作君千切れちゃうよと窘めた。

「たとえ伊作が千切れてもお前にはやらねぇ!!」
「ちぎっちゃらめぇええ!!」


いやぁっと騒ぐ伊作を見てくせ者はやれやれしょうがないねと思いやり故に手を離す、ようなことは別になくて引っ張りあげた伊作と芋づる式にくっついてきた留三郎も肩に担ぎあげた。

「はい、よっこらしょー。」


そうして真っ暗な夜の山奥に消えてった。








「いやぁ、星が綺麗だね。留三郎。」
「…。」


山の途中にちょっと開けた土地があって、そこで首を仰向ける伊作と留三郎の眼前にはきらきらとそれは綺麗な星空が広がっている。なんでも、今晩は流星が見られるかもしれないとかなんとかでくせ者は伊作と星をみる約束をしていたとかなんとか。
留三郎はすっかり渋い顔で、寒くないかい、なんてくせ者が右手で伊作を、左手で留三郎の肩を抱き寄せてみても黙り込んでいた。細い眉がひくひくと痙攣している。

「…もう知らねぇ。」

ぼそっと何やら呟いたので伊作は首を傾げて留三郎を見た。

「ん?」
「もうどこへなりとも攫われちまえよお前!もう俺は知らん!」

がなり立てる留三郎の背中でおや、星が流れたよ、とくせ者が笑った。






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伊作に「らめぇ」って言わせてくださいねといつかのチャットで言われ、私の作風的に「らめぇ」はないだろうと思っていたのですが、がんばってみました。
食満が格好悪いのが反省点です。

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