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群青 雑伊

▼群青
 



  うちの学年は伊作がいるから卒業の日はきっと雨だろうなあ。
誰もが知る善法寺伊作の不運を指して誰かがそんな冗談を言っていたのだが、学園生活6年間の締めくくりという輝かしき日は幸運なことに雲ひとつ無い青空が広がることとなった。


学友達と思い思いに別れを告げて、まだ感傷覚めやらぬまま山道を踏んでいた善法寺伊作は不意に辺りの空気が変わった気がして足を止めた。


「早過ぎますよ」


失望したような声で伊作が呟くと傍らの藪の中から黒装束の男が飛び出してたじろぐ伊作の身体を抱きしめた。
常は掴み所の無い胡乱な目をした男は、今は薄ら暗いような喜びやら興奮やらを身にまとう空気からぷんぷんと発散させていて、その所為で心なしか辺りの木々までがざわざわと落ち着きなくさざめいている様だった。

「早い?私は待ちわびたよ。もう一生分を待ったようだった。これ以上は待たないよ」


ふふふ、と嬉しそうに男が笑ったので伊作も同様に笑い返した。
伊作よりもう何年も人生を謳歌している男が、伊作が微笑んだというだけで子供のように素直に喜色を滲ませるのは面白かった。

「卒業おめでとう。」

男が手を伸ばす。その手を取るのを伊作は一瞬躊躇した。
卒業したら、この男の下で忍として働くことを約束していた。その場の成り行きもあったが散々考えた末のことである。
悔いがあるとすれば、

伊作は先刻仲間たちと別れを済ませた道を振り返った。6年間同じ部屋で過ごした親友は、伊作がこの男についていくのを嫌がるだろうと思った。優しい伊作の指が好きだと言っていた。

やっぱりよせばよかったかな。

そんな思いが胸を過ぎりながらも伊作は男の手を取った。かさついた手が伊作の手を強く握り返す。


「さあ行きましょう、雑渡さん」


後悔したところで時既に、




08/11/3


Imagesong:椿屋四重奏「群青」


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