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縁があればまた会おう/現パロ。転生ものかもしれない。

▼「縁があればまた会おう」


  消毒液の臭いがきつ過ぎるのが救いだった。伊作は焼けて爛れて白く膿んでいる男の顔にガーゼを当てながらそんなことを思った。皮膚がもう自力では再生しないくらいに焼けてしまった男の顔は本当にグロテスクだったし、アルコールのつんと鼻をさす刺激がなかったらきっと酷く臭っただろう。そういう男の顔に伊作が綺麗に包帯を巻いてしまうと、男は包帯の隙間から右目だけ覗かせてにこりと笑った。

「ありがとう」

 男は雑渡というのだそうだ。2週間程前、まだ焼けていない綺麗な顔で伊作の前に現れた。
やあ、探したよ伊作君。というまるっきりデートに遅刻してきたみたいな台詞で話しかけてきた男を伊作は知らない。けれど男は伊作の名を呼び、伊作の肩を抱き、伊作の恋人を名乗った。伊作は一瞬ぞわっとしたが、男が一見紳士的な様子だったのであまり警戒を抱かなかった。ひとつふたつ、瞬きして訊ねる。

「僕たちどこかでお会いしましたか?」
「前世で」

笑おうか、と伊作は思った。
けれど男は至って真面目な顔をしている。笑う代わりに伊作は気の毒そうな目をして男を見上げた。そんな目をする伊作に男は驚いたようだ。

「・・・私のこと、覚えてない?君の前では雑渡と名乗っていたよ。」
「申し訳ないですが。」

 伊作は丁寧に首を横に振った。男はしばらくぱちくりと目を瞬いて伊作の顔を覗きこんでいたが、やがてそうかそうかと頷いたので伊作はほっとした。

「そうだね、覚えてなくても無理はない。すまなかったね。」
「いえ、分かって頂けてよかったです」

男は案外あっさりした態度で伊作の肩を離した。それじゃあね、と伊作に笑顔を向けて去っていく。それじゃあ、のあとに「またね」が省略されていることに伊作は気が付かなかった。
 それからもう次の日である、伊作のアパートの前に顔の焼け爛れた男が訪ねてきたのは。

「やあ、うっかりしていた。あの頃は私こういう姿をしていたから。」

そう言って男は両腕を広げた。まるで伊作が今にも勢いよく飛び込んでくると信じて疑わないようだ。男の顔は焦げている。湯を被ったなんて程度の火傷では無い。伊作はどんなふうにすれば人間の皮膚がこんな風に焼けるのか知りもしなかったが、眼の前の人間がどれ程怖い人かは理解した。それと同時に自分がどんな風な深さで男に愛されているか理解した。思わず震える。
男はどことなく嬉しそうな顔で伊作の反応を待っていたが伊作がいつまでたっても扉の前で青ざめたまま動かないので首を傾げた。それから納得したように、ああそうか。と口を開いて、

「左目も抉った方が良かったかな?」

ああ、雑渡さん!
咄嗟に伊作は出来る限り懐かしそうなふりをしてそう声をあげた。そうして今に至る。




「ちゃんとお医者に行った方がいいですよ。」

 僕は医者ではありませんので。と伊作は言った。

「構わないよ。」

また君に手当てしてもらおうと思って焼いたんだから。と男がいう。ありがたくない話だ。男は顔を焼いて訪ねて来た日からそのまま伊作の一人暮らしのアパートに住みついている。薬局で買ってきただけの市販の軟膏を伊作は男の肌に塗り包帯を巻く。焼け焦げた皮膚は元に戻るのか、これからも毎日男の顔に包帯を巻いていかなければならないのか伊作には分からなかった。

「伊作君」

ふと、男が伊作の頬を撫でたので伊作は身を固くした。
骨ばった男の指が伊作の茶色く脱色した髪を掻きあげる。柔らかい癖っ毛を懐かしそうに眺めて、男の目が細くなる。情事の後はいつも疲れて寝てしまう伊作の裸の背中に流れる髪が好きだったという。伊作はこの男を知らない。

「髪、また伸ばしてよ」

 伊作はせいぜい微笑んで頷くしかなかった。





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