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▼目玉一つ
ちょっと持っててくれる?
と何げなく言われて留三郎は伊作の前に手を出した。すると手のひらにころん、と乗せられたそれは丸い目玉だったので留三郎はぎょっとした。
「うわ、なんだこれ」
目玉じゃないか。と言っている伊作は留三郎の手のひらにまん丸い目玉を置いて、自分は救急箱からせっせとなにか準備している。包帯だ。一巻き、二巻き、どんどん傍らに置いていく。留三郎は手のひらに目玉を乗せたままなんとなく動けないでいたが、伊作が自分に構わずどんどんありったけの包帯を集めていくようだから、堪えかねて促した。
「おい、説明しろ」
ああ、そうかと惚けた声で返事した伊作の話はこうである。
夕方頃、遣いから帰る途中の山道で伊作は雨に降られた。雨に降られて難儀していると男に会った。男は黒い忍び装束を着ていて、装束の先から覗く腕から顔に至るまで包帯まみれだったそうだ。唯一、右の目玉だけ包帯から覗いて見える。
黄昏時、只でさえ薄暗い時分に雨の山道。辺りは暗く、男の姿は暗闇に包帯を巻き付けたように伊作には見えたという。その男が言う。
「包帯を分けてくれないか」
道行く旅人にかけるには妙な言葉である。けれど伊作には、ちょうどその包帯の持ち合わせがあった。薬も薬草もいっぱい持っていた。何故なら伊作は彼の通う学園の保健委員というやつで人を診るのに使う救急道具一式、常に持ち歩いているのだ。
伊作は包帯を分けてやった。ご入り用なら化膿止めも痛み止めもありますと言った。自分は医療の心得があるから怪我をみてみましょうかとも言った。
結局、男は包帯だけ貰ってそれ以外を丁寧に辞退したが、伊作の言葉には酷く嬉しがったらしい。
その男が笠をくれたのだそうだ。
おまけにここいらに空き小屋があるのを知っていて、なんのことはない忍びであるその男が辺りを調べる間の潜伏先に利用していたのだそうだが、雨が止むまでそちらに寄りなさいと言う。伊作は喜んでついて行った。怪しげな風体の男だが伊作はあまり人を疑わない、そういう気質なのである。
ところで小屋に着いてから、伊作は男の包帯を換えることを申し出た。屋根を貸して貰った礼に包帯だけ置いていくのは申し訳ないと伊作は思ったのだ。
男は初め断ったが、伊作があんまりしつこいので、明かりをつけないでくれるのならばと承諾した。日はもう沈みかけていたし、小屋の中は薄暗かったが、伊作は男の包帯の下が余程酷い惨状で、他人に見られたくないのだろうと解釈した。
そこで暗い部屋の中で手探りで包帯を剥がし始めたのである。
ところが明かりを付けないでの作業というのは存外大変だったのである。古くなって汚れた包帯を剥ぎ取るまでは良かったが、いざ包帯を巻いてみようとすると男の身体がどこにあるか分からない。幾ら暗闇の中だって、目が慣れれば全く見えないということも無いだろうと伊作は思ったのだが、それでもやっぱり男の姿が見えないのである。
仕方なく伊作は足元の方にだけ、ほんの少し、ほんの少しだけ燭台を寄せて火を付けてしまったのである。
「あ、」
声がしたときには遅かった。こつーん、と屈んでいた伊作の頭に落ちてきたものがあって男は消えてしまったのである。伊作の手の先に触れていた人間の感触がもうそこには無く、火元を掲げて伊作が見渡すとそこには男の装束と剥ぎ取った包帯、そして床に目玉がひとつ残されていたのである。
「あの人はまさに暗闇に包帯を巻きつけたものだったんだよ。」
伊作はそう説明を終えた。
留三郎は伊作の話を怪訝そうに聞きながら、細い眉を顰めては手のひらの目玉に視線を落とす。俄かに信じられない話だが、からかわれている様子も無い。
「それでこれをどうする…」
ふ、と明かりが消えた。手元に十分に包帯を集めた伊作が部屋の明かりを落としたらしい。留三郎の手のひらで緩く蠢く感触があった。瞬き。そう留三郎は認識した。
「あまりに申し訳ないからもう一度包帯を巻いてあげようと思ってさ。」
暗闇を、人の形に包帯を巻き始めたらしい伊作に応えるようにどこからともなく返事があった。
やあ、面倒をかけるね。
留三郎は絶句した。
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日本怪談話。(もはやBLでもなんでもない)
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