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涙/卒業後 雑伊


▼涙




 惜しくて泣くのと嬉しくて泣くのとでは涙の味は違うんですよ。

善法寺伊作という少年が学園を卒業してから何年か、雑渡が久しぶりに会った彼は今では立派な忍びになっていたが、理屈臭くうんちくを語りたがる癖はそのままのようで、綺麗な人差し指一本伸ばしてつらつら言葉を連ねている。
とある昼下がりの戦場である。

「人の涙の九割は水分ですけどね、あとの一割はじゃあなにかというとナトリウムとかカリウムとかの電解質、タンパク質なんかなんです。ナトリウムっていうのは塩ですね。それで涙ってのはストレスにさらされて交感神経が活発に働くときはナトリウムが」

どこかの城に務めているらしい伊作は医療忍として働いているようだ。雑渡が見かけたところ伊作は彼の同胞らしき負傷兵を探し選んでは手当てを施していた。
この手当の相手を依り選んで、というところに雑渡は大変驚いたのだ。なぜなら雑渡の知るところの伊作はいっそ愚かなほどに助ける相手の選り好みをしなかった。それがいまや、伊作は見つけ出した負傷者が敵兵ならばきちんと始末までしているのである。始末と言うのはつまり息の根を止めてしまうことだから、伊作の見慣れない色の忍装束からは鉄さびと消毒液の匂いが混ざって立ち上っていた。
立派な忍びになったものだ。
雑渡は思った。これは昔からそうだったけれど伊作のうんちくは半分も聞いていない。またそれも関係なしに一方的に言葉を続ける伊作も昔からなにも変わりなかった。

「だからね、悲しかったり怒ってたりするときの涙はしょっぱいんです。」

やがてそう締めくくった伊作は満足に語り終えたのか雑渡の前に歩み寄ると伸びあがって頬の上に接吻した。雑渡は殆ど条件反射の様にそんな伊作の肩を抱き寄せて、なぜそんな話を、と尋ねる。

「だって雑渡さん、お泣きになるから。」

どうしてかと思ったんです。
伊作は舌の上で涙の味を検証したかったらしい。雑渡にすれば自分が涙を流したということさえ初耳である。気がつかなかった。
それで、どうだったかい?

伊作は立派な忍びになったのだが、それが悲しいのか喜ばしいのか、味を尋ねてみた雑渡にも判然とはしていないのだった。




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