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子猫とカラス/悪い大人に騙される伊作 雑伊


▼子猫とカラス



 今日ね、怪我をしているカラスをみたんですよ。こう、羽根を片方突き出してね、飛ばないで歩いてるんです。足で跳ねるみたいにちょんちょん、って。それで僕気になって、どれ診てやろうと思って近づいて行ったんです。でも抱き上げられる位近くに行くと、急に、飛んでっちゃうんですよね。それでもそう長く飛んでいなくて、すぐにまた地面に降りてよろよろ歩くんですよ。なんか可哀想でね、僕しばらく見てたんですよ。そしたら猫がやってきた。まだほんの子供でね、こんなちっちゃいんです、可愛かったな。薄茶の毛の色のふわふわしたやつでね、それが好奇心旺盛にカラスのあとをついて行き始めたんです。
後ろをついて行きながらたまに飛びかかってみたりするんだけど、やっぱりカラスはちょっと飛んでみて、落ちてくるんですよね。そんなのを繰り返して、藪のあたりかな、見えなくなって随分遠くまで行ったなっていうのを見てたんですけど今思い出してなんか気になるんですよね。



なんでも無い様な手当の間、伊作は饒舌だった。漆にかぶれた下級生の背中に薬を塗ってやっている間だとか、手のひらに刺さったざらざらした木の肌や、刺を抜いてやっている間だとか、患者と伊作が向かい合う気まずくなりやすい時間を伊作は良くしゃべることで流した。
今も、持ち歩き用の木の箱から消毒液やら清潔な包帯やら出しながら伊作はつらつらしゃべっている。目の前には雑渡という男が居て、元々包帯だらけの姿からは一見して知れないが、新しい血の匂いがしている。
もうじき日が暮れようかという頃、上級生とはいえまだ十五という歳である伊作は友人と学園の裏の原で他愛も無く遊んでいたが、この血の匂いに足を止めた。ちょうど隠れ鬼の最中で誰も伊作を見ていなかった。


「誰か怪我をしているの?」


伊作は匂いの方、森へ続く薄暗い藪の向こうをひょいと覗いた。するとちらり、と着物の翻るのが見える。足元に目をやるとぬかるんだ地面に足跡が、足を少し引き摺ったように残っていた。


「もし、そこの人」


伊作が続けて声をかけたところ藪向こうでぐらりと倒れるように人影が落ちた。
よっつ、いつつ、数を数える声を背中に置いて、救急箱ひとつを引っ掴むと伊作は藪の奥、森の中に飛び込んでいったのだ。
人影はしばらく森の奥に逃げて行ったが、手当てをさせて欲しいとしつこい伊作はようやくその背中を掴まえて、草陰に上衣を敷き、ようやく手当の了解を得るに至った。
追いついてみて分かったことだが、手傷を負った様子で藪に潜んでいたのは雑渡という、伊作も知った顔の、しかし他所の良くない城の忍びだったのだ。

話は子猫のことに戻る。


「その猫のことをね、今思い出して。というよりカラスの方を雑渡さんを見て思い出したんでしょうね。今頃、気付いたんだけどもしかしたらあのカラス怪我なんてしてなかったんじゃないかなと思って。カラスって頭の良い鳥でしょう?そんな風にして獲物を誘いだすって僕どこかで聞いたんですよ。猫、ほんとこんなちいさかった。だからどうなったかなって。僕見てただけで、もしかしたら可哀想なことをしてしまったかもしれない。」


 もう少し早く気付いていればなぁ。
と随分猫贔屓に伊作は言って、雑渡の腕に触れた。血の汚れの染みついた辺りの包帯をくるくると解いていって、おやと首を傾げる。包帯が濡れて重たくなるほどだったのにそれを解いた先の肌に新しい傷はない。その肌から雑渡の顔へ視線を上げようとして、伊作はぐるりと視界が転回したのに気付いた。
地面へ押し倒されたというのには、雑渡の身のこなしがあんまり素早いのでなかなか思い至らなかった。
ぱちくりと目を瞬いている伊作の身体を組み敷いて雑渡は自分の頭巾の口元をずらして脱いだ。笑っている。

「伊作君はいつも気付くのがあと少し遅いようだね。」

猫、食べられちゃったんじゃない。
伊作は差し伸べられた雑渡の指が首の下を擽るのに、はは、と乾いた笑いをと冷や汗を浮かべて困ったなぁと呟いた。

 


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