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手つかずの世界 雑伊

▼手つかずの世界 


 


 人目を憚って内緒話をするみたいな、この関係が伊作には楽しくて仕方ない。
闇夜にたまに訪ねてくる雑渡という男はしばしば伊作の頭を抱き寄せて、己がどんな風に伊作のことを愛しているか欲しているかどんな邪な考えを抱いているか伊作に囁く。伊作が其れを聞きたがるからである。


「好きだよ伊作君」
「それで?」
「手足を縛って担いで攫ってしまおうか」
「それで?」
「どこか格子の有る部屋に閉じ込めてしまって」
「それで?」
「こうして話をしたり時々抱いたりするんじゃないかな」
「僕が逃げたり嫌がったらどうします?」
「そうしたら足を切って」
「それで?」
「抱くんじゃないかな」
「僕が死んでしまったら?」
「・・・。」
「どうしますか?」


雑渡が黙って伊作を強く抱きしめたので伊作はふふふ、と空気を揺らして笑った。


「嗚呼、そんな悲しい顔をなさる。嫌だなァ、僕があなたを苛めたみたいじゃないですか。」
「だって私は本当に君が好きなんだ。」

 雑渡は伊作を愛したのである。伊作をどうしたいかと聞かれて正直に思い浮かぶのは攫ったり犯したり伊作に危害の及ぶことばかりであるが、けれど伊作を喜ばせてやりたいと思っている。


「そんな悲しい話はやめて、何か望んでおくれよ。私は君に何かしてあげたい」
「ではお話しを続けてください」
「・・・。」


 雑渡の非難の目線に伊作は眉を下げて微笑んだ。


「だって今後のふたりの幸せなどあなたに望めそうもありませんし、他に欲しいものなどありませんし、どうぞ攫っていってなんて僕から申し出るのは野暮と言うものでしょう。
あとはもうあなたがこの時だけでも僕をどう思っていらっしゃるのか聞きたいだけで…、他に望みなんてありません」

 雑渡の腹の内には到底伊作には聞かせられないような汚い話しかないのだが、伊作はそれが心地良い、聞きたいのだと言う。ねぇ、と甘えたように伊作は強請った。
喉が嗄れてしまうまで構わずにどうぞ話を聞かせてください。




image song 椿屋四重奏「手つかずの世界」(あなた以外に望みは無いから 構わずに話を聞かせてよ)

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