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ポルターガイスト 雑伊

▼ポルターガイスト




 雨期が近づいてきていたので雑渡の包帯の下は大層膿み易くなっていたのである。


「これからもっと沢山いらして下さいね」


 雨期が近い。空気が湿気を含んで重たい。小まめに包帯を替えてやらねば傷の具合が宜しくない。
だから、伊作が雑渡の身体に包帯を巻き終えて優しい声音でそう言ったのはもちろん逢瀬を求める言葉ではなくて雑渡が身体を腐らせないように注意を促したに過ぎないのである。

 それでも嬉しいものは嬉しい。雑渡は片方だけの目をぱちりと見開いて、伊作を見返した。伊作は雑渡の視線を不思議そうに受け止めると、分かったんですか?と一寸眉を顰めて尋ねた。雑渡はそれにうんうんと幾度か頷いた。それなりに戦がちな城の忍組頭なんて張り詰めた生業をしてもう大分長い男の、今の顔の筋肉は緩い。

「今度はなにかお土産を買ってくるよ」

どこか目的を見誤ってる男の言葉に伊作はちょっと眉を寄せた。それがもう先月のことである。








「随分長い間いらっしゃいませんでしたね」

雑渡の肌から古い包帯を剥ぎ取りながら伊作は言った。雑渡は訪問を待つ言葉に随分嬉しそうだったから次の日にでもやってくるのではないかと、そう伊作は思っていたのだ。伊作は可愛い唇をきゅっと引き結んで雑渡を睨むように見ている。


「ほら、やっぱり膿んでるじゃないですか。」

雑渡は嬉しそうにうんうんごめんね、と頷く。

「一度会いに来たんだけどね、どんな顔をして会ったらいいか分からなくなった」
「は?」


何を今更、と伊作は言って眉を顰めた。
だってねぇ、と呟いて雑渡は愛しげに目を細めて伊作を眺めた。伊作は居た堪れない気分で頬を染めてそっと顔を逸らした。
 姿の見えなかったひと月、雑渡は何度か伊作の居る学園まで訪ねてきていたらしい。伊作は夜を部屋で過ごさず保健室に控えていて、雑渡が天井裏から覗くと、膝の上にちょこんと包帯やらなにやら揃えて雑渡のことを待っているのだ。伊作は時折障子の向こうを透かすように眺めたり天井板が動いたりしないか目を向けている。それから大層美しく微笑むのである。
 雑渡はそれでもうこの愛しい子供の前でどんな顔をしたらいいのか、自分の顔は恐ろしいし、と悩んでしまったのである。全く今更の話である。



「だって君があんなに可愛く笑うものだから」
「笑ってなんか、いません」


 全く自覚が無い。けれど雑渡のやに下がった笑顔を見ればそれが本当らしいと知れる。
伊作は緩みかける唇をきゅっと引き結んで眉を寄せて、雑渡を睨む顔をした。

「雑渡さん。これから暑い季節になりますし、包帯も蒸れると思いますから、ちゃんと会いにいらして下さいね。」

雑渡は幸福そうに目を細める。


image song 「ポルターガイスト」(椎名林檎)
『もつと澤山逢ひにゐらして下さい・・・さう口走つた君。』

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