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愛してるんじゃないかな/愛されたがりの雑伊


▼愛してるんじゃないかな
 

 

  雑渡さん、雑渡さん、

伊作が柔らかな声音で呼び掛けてくるのは可愛らしい。
口を開けば雑渡が拵えてきた新しかったり古かったりする傷の手入れの注意やらどうでもいいようなうんちくしか口にしないけれど雑渡は伊作に並みならぬ思い入れがあるので大抵何を言われても可愛い。

けれど伊作がにこにこと僕を愛しているでしょう、と聞いたのには少し困ってしまった。

「そう思うの?」

雑渡が訊ねると伊作は花咲く如く微笑んで頷くので雑渡はもっと困ってしまった。
雑渡は伊作に並みならぬ思い入れがあるけれど愛とか恋とかそういうことではなかった。
伊作のことは生涯これ程までに愛しく慈しんだものがあろうかという程に特別であったが、愛とか恋とかそういうことではなかった。雑渡は物に頓着したことがなかったが、気に入りの骨董品を愛でるならこういう感じであるかと思えた。

「じゃあ伊作君は私を愛しているの?」

恋人の様な掛け合いに雑渡は目眩を覚えたがそれでも訊ねたところ伊作は花のような笑顔でしかし、いいえ、と言った。

「…じゃあいいんじゃない?私が君を愛していようと愛していまいと。」

「拗ねないで下さいよ」


伊作がそんな風に言うので雑渡は気が抜けてしまった。


「だってあなたと僕は友達ではないでしょう。師弟でもなければ親子でもないでしょう。
でも雑渡さんは僕のことを好いてくださってるでしょう」

「そうだねぇ。」

雑渡が伊作のことを好いているのは間違いないので雑渡はこれには頷いた。


「だから僕を愛しているでしょう?」


伊作は満足そうに微笑むので雑渡はなんと愚かで軽率な子供だろうと呆れた。

伊作は自分が好かれているのを知って色々な可能性を考えてみたようだった。

人から寄せられる感情はそんな綺麗なものばかりではないよと雑渡は思う。
けれど、雑渡は伊作の言う通り伊作の親でもなければ先生でもないので、世の中を説いてやる必要はまるでなかった。
そして伊作の言う通り伊作のことを好いていたので、伊作の喜ぶことを言ってればそれで十分だった。


「そうだねぇ。私は君を愛していると思うよ。」

しかし伊作を育みもしなければ教えもしないそんな言葉を雑渡は愛だとは思わないのだった


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