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悪あがき/伊作の新しい不運回避法。 雑伊


▼悪あがき


 真夜中の保健室である。
薬棚が一面びっしり占拠している壁を背に伊作はじり、と後ずさった。追い詰めているのは全身包帯塗れのくせ者で名を雑渡という。
雑渡という男は伊作を恋い慕っているらしい。後退する背がぴたりと壁に張り付いてしまった伊作を物欲しげな目でじぃ、と見て手を握り、頬を撫で、口を吸おうと唇を寄せる。とうとう逃げ切れないと悟った伊作はそこで、嗚呼!と耐え切れない様な嘆息を漏らして早口に言うのである。


「僕はあなたが好きです。」


 雑渡は伊作のそんな台詞を真に受けたりはしないので、訝しげに眉を寄せはしたが、接吻を思い止まる謂われはない。言葉を告げ切らないうちに唇を塞がれてむう、と伊作が呻いた。呻くくらいで抵抗も無く大人しい。
雑渡が絡めとる様に伊作の腰を抱き寄せて、口内に舌を差し入れて、唾液の絡むぴちゃぴちゃという音のするような、そういう接吻をしても伊作はとても大人しかった。あまつさえ腕を雑渡の首の後ろに回して身体を抱き返す。
けれど言っておくが先程雑渡が伊作に触れようと邪まな手を伸ばしたとき、伊作は後ずさって逃げたのである。

「…僕を抱きますか?」

唇が離れて伊作はそう雑渡に尋ねた。その聞き方は期待よりどちらかといえば応と返事のかえるのを恐れているような感じがした。雑渡は一、二度首を傾げて、それから面白がって頷いた。

「まぁ、…そうだね。」
「…それなら僕はあなたに望んで抱かれますね。」

望んでと言う割りに伊作の顔は引き攣っているのである。見るからに不本意が窺い知れる。
抱かれますね、の言葉のあとに伊作は小声でぶつぶつ何か繰り返しているから耳を澄ませば、妙な呪文が雑渡の耳に聞こえた。


「だから僕は不運じゃない、僕は不運じゃない、不運じゃない不運じゃない…」
「なんだいそれ。」

ふっと笑う雑渡は伊作の腰を撫でて着物の裾を割って、白い太腿に直接触れながら伊作に訊ねた。伊作はぶつぶつ言うのを一旦やめて雑渡を見上げる。ちょっと拗ねた恨みがましい被害者面だ。口を開く。

「病は気からと言うでしょう。」

それです。伊作は言った。
雑渡はぱちりと右だけの片目で瞬いて、よく分からなかったので伊作の裾の中の下肢を探り続ける。まだ遊びの気安さで下帯の上から手のひらを擦り付ける。んん、と鼻で鳴いて伊作は頬を染めた可愛い顔をした。
雑渡の首の後ろに回した手で着物の後ろ襟にきゅっとしがみ付く。

ところで要領を得ないので、病は気から、の詳しい意図を聞いたら妙な理屈が返ってきた。


あのね、だって不運は嫌でしょう。

「僕があなたを好きなら、たまたま保健室でひとりで居てあなたに見つかっても、あなたに抱かれても、あなたに好かれたのも、不運じゃない。ので僕はあなたを好きになります。好きです。」

そういうことです。伊作は言った。
ははぁ、と雑渡は感心したんだか呆れたんだか良く分からない相槌を打って頷いている。要するに気の持ちようで不運を不運と思わぬようにしているらしい。それは自己暗示なのだかなんなのか、ひょっとして遊んでいるんだろうかと思ってしまう。なんにせよ。

「案外君も悠長だねぇ。」

下帯の中に手を入れて弄り始めると伊作はわざとっぽくしなを作って喘いだ。


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