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恋する化け物/恋する雑渡さん 雑伊


▼恋する化け物


 化け物、と震える唇が紡ぐので雑渡はおもしろいなぁと思った。
雑渡の目の前には今、大層見た目の可愛い少年がカタカタ震えて部屋の隅に逃げて追い詰められている。柔らかな豊かな髪の毛の甘い顔をした伊作という少年に雑渡はすっかり恋をしてしまった。ふと、とても会いたくなってしまう。

 血生臭い仕事をしたそのあとで気持ちがとてもざわついたから雑渡は伊作に会いに来た。
壁中、薬棚でいっぱいの四角い空間が伊作のお城だ。夜に忍び込んで驚かす。死臭と興奮の気配を隠しもしないで雑渡が伊作を後ろから抱きしめると伊作はきゃあきゃあ騒いで逃げる。片方しかない雑渡の目玉はぎらぎら光って如何にも危ない。
尻餅を付いたままずりずりと後ろに下がる伊作は背が部屋の壁に付いてしまうと口をぱくぱくさせて何か慌てている。


「化け物、」
「おもしろいことを言う。」


伊作はごくりと喉を鳴らす。
 雑渡の身体は全身焼け爛れて片目は抉れて穴になっている。それを覆い隠す包帯姿はすっかり木乃伊男なのである。けれど伊作はそんな見た目が怖いのではない。伊作を目の前にしたときの雑渡から溢れる気配が怖いのだ。それは黒くて泥泥渦巻いていて伊作に触れる雑渡の指から、嬉しそうに笑う唇から、三日月に細められる目から、ごぷりと溢れては伊作を絡め取ろうとしている。
 そういう気がするという話である。


「君の前では私はこんなにも人間だというのに」


 雑渡は人間をやめてもうしばらく経つ。
肌を失って片目を失って爪を失って友を失って女を失って正気を失って、凡そまともな感情の機微がすっかり分からなくなってしまってから暫く生きた。なんの感慨も持たずに生きた人間の皮が剥げて火を放つことが出来て、そのあとで飯を食べてぐっすり眠れるようになった雑渡は人間じゃなかった。化け物だった。

 ところが雑渡は伊作を好いて久しぶりに胸が高鳴るのである。
無意味に顔が見たくて、身体に触れたくて、驚かせて泣かせてしまったら、それが可愛くて申し訳なくて仕方が無いのである。そういう感情すべてがまた愛しいので雑渡は嬉しかった。


「ねぇ、君のおかげで私はひさしぶりに人間になったよ」


小さな悲鳴をあげる伊作の可憐な唇に雑渡は接吻した。なんとなく呪いが解けるような気がした。

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