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ドナー/※グロ・痛い系描写有り。割と恋する伊作。雑伊


▼ドナー


 忍術学園六年生、保健委員長の善法寺伊作といえば忍びに向かない大層心の優しい人間であると知れている。遣いの途中で行き倒れの老人を解放したり、戦場の視察に出かけてそこいらじゅう溢れている負傷兵を所属、素性問わず手当てしたりする。人を癒すことの好きな子供である。
 ところがそういう伊作の風評が最近では違っているらしい。

「まるで鬼か獣の所業だって」

噂になっているよ。
 包帯ぐるぐる巻きの隙間から瞬きもしない片目を覗かせてそう話しかけるのは雑渡という男である。雑渡は伊作が戦場で見境無く手当てを施した数多の人間の内のひとりで、助けられた恩義やら、好奇心やら、伊作の整った容姿と若さに対する欲望やら、とにかく伊作に大変関心を寄せている。

 さてその雑渡の目は伊作の手元に注がれている。伊作の指の細い白い手は血と脂でぬめぬめと赤く黒く汚れている。膝を曲げて屈んでいる伊作と雑渡の間には、辛うじて生きている、と言える程度の瀕死の人間の身体が置いてあって伊作はその身体を開いて調べてぬめぬめぐちょぐちょと手を汚しているのだ。二人の居るのはつい先日、戦の終わった土地であるから亡骸や、その一歩手前が辺りには随分見受けられる。
雑渡は首を傾げて伊作の作業を見守っていたのだが、やがて退屈したように顔を上げた。


「もう人を治すのはやめてしまったのかい?」
「いえ、僕は保健委員ですから。…治せるものは治しますよ。」

伊作はそんな風に答えて目の前の身体をぐちゃぐちゃ検分しているから、これはもう治らないものと見切りをつけているらしい。
ここ最近のことである。伊作が死体や瀕死の人間の身体を開くようになった。身体を動かす筋の束を引っ張り出して指や手首の動くのを眺めたり、破損した血管と血管を結んでみたり、そんなことをしている。
伊作の身体からはほんのりと死臭が香り、小さな子供は彼を怖がり、近辺の村々では良くない噂も聞くようだ。山火事や戦の跡にやってきて死体を漁る餓鬼だとか。

ところが雑渡の見る限り、伊作はそういう非人道的に見える所業をいたって正気に行っているのである。
足元に横たわる見知らぬ誰かが弱って冷たくなっていく様を眺める伊作の目は、雑渡の全身を覆う包帯を伊作が取り替えるときと変わらぬ目をしているのである。
誰彼かまわず世話を焼いて、保健委員ですから、と言い張るときと同じような目なのである。

「結局、伊作君は何をしているのかな」

雑渡は訊ねた。
何故なら雑渡は伊作に並々ならず関心を寄せていたからである。伊作は懐から手ぬぐいを出して手を拭いている。

「雑渡さん、僕はあなたに恋してます。」
「おや」


伊作と雑渡の間からは死にたての生臭い匂いがぷんぷんしているのだが、こんな状況でも嬉しいなぁと雑渡はにっこりした。伊作はふぅ、と溜息を吐いて立ち上がる。屈んでいたら足が痺れてしまったらしくて少しふらつく。放っておいたら音を立ててすっ転んでしまいそうな伊作の腰を雑渡は支えた。
小さく礼を言って、伊作は雑渡の包帯塗れの顔を見上げる。

「だからね。勉強を始めたんです、僕。生きたまま腕を挿げ替える方法とか、切断した筋を繋ぐ方法とか、皮膚を張り替えてしまう方法だとか。」

だけど失敗ばかりです。
伊作は眉を下げてすこし気を落としたような顔をした。

「そんなことを勉強してどうするの?」

雑渡が訊ねると、伊作は不埒に腰を抱いている雑渡の腕にきゅっと抱きついたりする。包帯のぐるぐると巻かれた傷んだ腕である。

「僕の全部をあげたいんです」
「おや」


 雑渡は爛れた皮膚をぐるぐる巻きに隠す包帯の隙間からぱちくり瞬きした。
伊作の細くて白い指や若くてつやつやした肌なんかは伊作の身体にくっ付いているのが一番素敵だと雑渡は思うのだが、それでもうれしいなぁと雑渡はにっこりした。笑って頭を撫でると近頃評判の鬼の子は白い頬を桜色に染めて恥らうのだった。



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