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往生際の悪い男/(食満伊)初チューに挑む食満伊


▼往生際の悪い男






 伊作がけらけらと笑っている。
心底可笑しくてしょうがないという様子の伊作と留三郎は憮然とした顔で向き合っている。留三郎は両手で壁際に追い詰めた伊作の肩をがっちり掴んで今まさに接吻を交わそうとしていたところであったのでそんな風に笑われて甚だ不機嫌である。

「手前ぇ、何が可笑しいんだ」

形の良い眉をきゅっと吊り上げて留三郎は睨みを利かせた。伊作はといえば肩を小刻みに揺らしてくくく、と喉が震えるのを堪えている。

「ごめ…ごめんね、…ふふ、あはっ…いや、本当に…っ」

謝罪の言葉を口にしながらも合間に笑いを零している伊作に、元々悪い留三郎の目つきがどんどん険悪になっていく。伊作はそれを見てなんとか笑いを腹に収めて、真顔を取り繕った。

「ごめんね、留三郎。さあどうぞ。」

どうぞ、と言って伊作は深呼吸して目を閉じる。未だ憮然とした顔の留三郎はちょっと逡巡したものの、結局伊作の顎に指を添えてちょっと上向かせて顔を寄せた。大人しく目を閉じていた伊作の睫が小刻みに震えて、唇と唇の触れる寸前、
…伊作はさっと顔を横に逸らした。


「…ぶっ、」
「な、お前またかよ…!」



がくりと肩を落とした留三郎を他所に伊作は顔を背けて涙を浮かべて笑っている。



「だって…顎に指とか…くいって…ふふっ。ねぇ君女の子にもそうするの?」
「…うっせぇよ」


伊作はくすくす笑ってそれから留三郎の身体をやんわりと押し遣った。



「駄目だ、留三郎。僕ら今更友達以上にはなれないよ」


なんだか笑ってしまうもの、伊作はそう言って留三郎の脇をすり抜けていこうとしたのだが留三郎は伊作の腕を掴んで引き戻すのである。


「ねぇ、往生際が悪いよ」
「手前ぇもだろ」



 ひくりと伊作は引き攣って笑ってすぐ目を逸らした。
伊作と留三郎は付き合いの長い友人である。ずっと長いこと友人で居た。その域を出ないように互いに誤魔化しながらやってきたのである。手を握りたいだとか接吻したいだとかそういう欲求を冗談にしてやり過ごしてきたのである。
だから伊作は今度も留三郎を笑い飛ばしてやろうと思った。唇を笑みの形に吊り上げる。

けれどそこで留三郎が伊作の唇をさっさと奪ってしまったのである。

「観念しろ。」

真剣に睨まれて上手に笑えなかったところで伊作の負けだった。





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