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幸運の神様/「私は運が良いんだよ」雑伊


▼幸運の神様
 


薬箱を取ろうとして蓋の空いていたそれをひっくり返してしまった伊作を見て雑渡は感心したように呟いた。

「不運、」

ひっくり帰った薬箱からは丸薬に仕立てた薬草やらがばらばらころころ広がって床を占拠している。
伊作は眉を潜めて振り返った。

「どこで覚えたんです?その言い回し」

学園でお馴染みの台詞を雑渡から呼び掛けられようとは。誰が吹き込んだものかと聞けば、誰とも無しに、とぼやけた返事が返ってきた。

「みんな言ってたよ。有名なんだねぇ」
「みんな、ですか」

伊作は繰り返して、眉は潜めたままであるが、苦笑い気味に少し笑ったので雑渡はほっとした。伊作は床に屈んで散らばったものを拾い集めている。それを眺めたまま雑渡は独り言の様な何気無さで言葉を落とす。

「ねぇ、君、私の所に来るといいと思うなァ」
「はぁ」

伊作は振り返らずいつもの様に煮え切らない返事をした。伊作の口許は穏やかに微笑んでいるのだけれどそれは雑渡には見えない。

「本気で言っているんだよ?」

雑渡は不服そうに言った。伊作は雑渡が本気であるなら腕でも足でもへし折って浚ってしまえるだろうと思うのであまり相手にしていない。そうですか、と相槌を打つのみである。
けれども雑渡は伊作が聞いていようといまいと構わないのか勝手にポツポツと話し続けている。

「本当にね、何故そう言うかというと私はとても運がいいから、一緒にくれば君の不運も薄らぐのではないかと思うんだよ。」

「運がいい、ですか」

伊作はそこでようやく雑渡を振り向いた。
全身を包帯で覆った雑渡の姿は悲壮感こそ漂いさえすれ、どうにも運の良い人間には見えない。
そんな伊作の視線を察して雑渡は本当だよ、と強調した。

「この怪我を負ったときだって普通だったら死んでいたしね。これだけ身体を焼いても生命として機能できるのも、そもそも指の一本さえ失わなかったのだって奇跡なんだよ。その他にも死ぬと思ったような目には幾らでもあったし、好いた女に刺し殺されそうになったことも、仲間と思った人間に毒を盛られたことも・・・ん?」

伊作が途中で呼び止めたので雑渡は小首を傾げて口を閉じた。

「分かりました」

伊作は言った。
要は気の持ちようなのか何なのか、雑渡の話を聞く限り思うことはひとつである。

「雑渡さん、あなた僕を上回る不運な方ですね」


あれ?と雑渡は不思議そうな顔をした。



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