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ネクロフォビア/雑渡さんが人でなし 雑伊


▼ネクロフォビア
 

 
四方を壁が囲う窓の無い部屋が伊作に宛がわれた部屋である。
伊作はそこで瀕死の男に手当てを施している。
男がどこの誰か伊作は知らない。ただ男が一目見るだけで死に至る手傷を負っていることが分かる風体であったためこうして手当てをしている。


無駄に広く立派な部屋には薬棚がずらりと並び壁を埋め尽くしていた。
けれど肝心の薬も包帯も男の命を救うにはあと少しだけ足りていないのである。

伊作はぎりりと奥歯を噛み締めた。
全身を刺し貫かれている男の身体は腕に包帯を巻けば足に足りない。足に巻けば腕に足りない。


伊作は身体にひとつ羽織ったきりの襦袢を脱いで裸になるとそれをびりびりと破いて布にした。
鋏も剃刀も無いので生地に歯を立てて穴を開けて手で無理矢理に引きちぎった。そうして出来た布切れをぐるぐると男の身体に巻き付け終わる頃には男の身体は失血で随分冷たくなっていた。

「だめだった?」

伊作の背に声がかけられた。
伊作の後ろには全身を包帯で巻かれた奇妙な出で立ちの男が立っていて、その腕にはまた新しい「死体一歩手前」がぶら下がっているのである。


伊作の手元にはもうひと巻きの包帯も残っていない。伊作はふらふらと死体一歩手前から徐々に死体になりかけてるものに、死んではいけませんと語りかけた。 やがて死体一歩手前が死体になってしまうと伊作は両手で顔を覆って嘆いた。

「どうして助からない人を連れてくるんですか、雑渡さん。」

伊作がさめざめ泣いてみせると、雑渡という男はだってね、と答えた。

「だって、君が人を手当てするのと、人のために涙する姿が私はとても愛しいんだよ」

そんな有り難くもない好意に首をへし折ってやろうかと伊作は思うのだが、けれどこの部屋に居る唯一の生存者と思えばそんな気にもなれないのだった。

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