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三月兎は恋をする(伊作総受け)　/　雑渡と食満とコーちゃんとその他色んな男女×頭の悪い伊作


▼三月兎は恋をする






　こいつは昔からそうだった。

春は発情の季節である。春に生まれた伊作は頭が年中春なのだ。伊作と一週間と間を空けずに生まれてる俺が言うのもなんだが、アレは頭の中を蝶が飛んでいる。要するに頭が緩い。

伊作が部屋に訳の分からない木乃伊男を連れ込んだときも男の帰った部屋がザーメン臭かったときも伊作と男が俺の前で口と口を合わせてちゅうちゅうべろべろやっていた時も俺は大して驚かなかった。
よくあることだからだ。

伊作は頭が緩い。伊作は見映えが可愛い。伊作は一部の男に都合が良い。
初めて伊作の性質を知ったのは10歳のときだった。

　あれは山を一つ越えて帰ってくる体力作りの基礎のような授業の最中だった。
学年で三番目くらいの順位で学園に帰り着いていた俺は、夕暮れが訪れても一向に戻る気配のない伊作を探しに、来た道を戻っていた。
俺が見つけたとき伊作は藪の中で浮浪者の様な汚い男に肩を抱かれ袴の隙間に手を突っ込まれていた。
俺が怒り狂い石を投げると男は拙いと思ったのか顔を覆って逃げていった。
伊作の手を握って山を降りる間、俺は震えていた。浮浪者が怖かった訳ではない。俺は伊作が怖かった。


「あのね留三郎。さっきの人がね、君は可愛いねぇって」


伊作は可愛く首を傾げて嬉しそうに頬を染めている。俺は伊作の手を強く握った。この手を放しては駄目だ、俺はそう思った。



　それから俺は伊作を監視するように見守ってきた。伊作は頭が緩い。伊作には年がら年中恋人が居た。これでも大分五月蝿く言って数を減らさせたのだ。
伊作の恋人は、女も居たが大体男で年上だった。ひとりと例外なく向こうから言い寄ってきたのだ。

中でも伊作は二つ年上の先輩を良く慕っていた。
その先輩も伊作を大事にしていたし伊作も幸せそうであったので俺はこれでもう伊作は安心だと思った。
だからその先輩が卒業したその春に、やって来た教育実習の女と伊作が寝たときは正直卒倒した。こいつには誰かが常に付いていてやらねば駄目なのだ。


　さておき、伊作の数多の遍歴の中には俺も居た。
伊作は、一時は部屋に置いてある骨格標本にすら恋をした男だから同室の俺とそういうことになるのは当たり前すぎるくらい当たり前だった。
骨格標本のことはまた話が拗れるので割愛するが、とにかく俺と伊作は愛し合った。
伊作も珍しく本気そうで・・・いや、伊作はいつでも本気なのだった。
とにかく俺はいっそ伊作の一生の恋人になることで伊作のこれ以上の暴挙を、だらしない遊びを、春を終わらせてやりたかったのだ。

無闇に惚れるな、簡単に口説かれるな、身持ちを固く、三禁忘るべからず。

なにか矛盾している気がするが基本的にその時惚れている男の言うことは良く聞く伊作は初めて俺の言葉にうん、と言った。

　それから暫く平穏な日々が続いた。
伊作は珍しいくらい健全で健やかな日々を過ごし、このまま毎日が続くのだと俺はそう思っていた。



俺が部屋の扉を開きその先で訳の分からん木乃伊男に伊作が抱かれているのを見るまでは。



　しかし俺は怒るまい。
今更怒る気にもならない。何故ならこんなことは伊作に限りよくあることなのだ。よくある、よくある話なのだ。



「だからいい気になんじゃねぇぞ」

と俺は目の前の木乃伊男に言った。
木乃伊男の膝にはちょこんと伊作が座って唇を尖らせている。

「酷いよ留三郎。人を色情魔みたいに」

木乃伊男、もとい雑渡昆奈門は宥めるよう伊作をあやした。よしよし、拗ねるんじゃないよ等と言う姿は親のようだ。

「彼はね、伊作くんを宜しくって言ってるんだよ」


つまりまぁそういう訳である。




伊作がビッチ。略していさビッチ。
次回は普通に可愛い伊作を書きます。多分。

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