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ピンクの着物/(食満←伊作)うどん屋デート前日。


▼ピンクの着物



 
 

 明日、町に遊びに行こうか。
ぽつりと留三郎が言った。伊作の方などはちっとも見ないで明かりの落ちた部屋で不意にそんなことを言うのだから伊作は最初それが自分に言われたのだと気づかなかった。だってそうだ、そんな発話が起こるような状況ではちょっと無い。

ほんの少し前、伊作は食満と初めて身体を交えたばかりである。



「ねぇ、ちょっと待って留三郎」
「美味いうどん屋があるんだよ」


伊作は眉を顰めて留三郎に声をかけた。留三郎は伊作の方などちっとも見ないで話を続けている。
 食い物のことはうちの後輩が詳しいんだ。美味い店を教えてもらったから明日にでもふたりで食いに行こうか。
 留三郎はなんだか必死なようだ。伊作の方などちっとも見ない。部屋を真っ二つにしてる衝立の向こうで伊作をうどん屋に誘う。
 ついさっきまで留三郎が居た衝立のこちら側では伊作が一糸纏わぬ姿でちょこんと布団の上に座っている。腹やら腿やらそこら中に白い精液が飛散っていて、それは伊作と留三郎のが混じったものだった。伊作は差し伸べかけた手で頭をぐしゃぐしゃと掻き毟った。手のひらに付着していた生臭いもので髪は汚れたけどもうもともと汗でべとべとだったので伊作は気にしなかった。


「ずるいよ、留三郎。卑怯者。」


 伊作は衝立の向こうの男を罵った。
留三郎は伊作と身体の交わりを持ったことを無かったことにするつもりである。留三郎は伊作を溺愛している。伊作は無知で鈍臭くて世に疎くて、留三郎はそんな伊作が好きで出来るだけ面倒を見てやって、切磋琢磨勉強して、時にふざけ合い一生そういう風に付き合っていくのが良いのである。
 伊作を抱いて留三郎はすぐに後悔した。白い裸体を艶めかしくくねらせてあられの無い言葉を口にする伊作は留三郎の知らない人間だった。どろどろに汚れた伊作を衝立の向こうに残して留三郎は逃げた。早急に日常へ帰らねばならなかった。伊作のことなどちっとも見ないで留三郎はうどんの話なんかする。


「留三郎、ねぇ」
「うどんを食ったら町をぶらぶらしようか。反物屋の店先を冷やかしても良いし、最近は暖かくなってきたから目的の無いただの散歩もきっと楽しいだろ」
「ねぇってば」



留三郎は伊作の言葉なんかはまるで聞こえないふりである。
伊作はもう何もかも馬鹿らしくて、身体に纏わり付いてる精液を傍らに脱ぎ散らかされた着物で拭いた。衝立の向こうでうどんの話がまだ続いてるらしい。自棄になって伊作は怒鳴り返した。



「ああ、そうだね。春だからね、桃色の小袖を着て行こうかな!」


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