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追いかけっこ/現パロ。雷蔵を探す三郎と逃げる雷蔵


▼追いかけっこ


 「この辺の通りを歩いているとね、らいぞう、らいぞうと声を掛けられるのさ。私はそれが不思議で仕方なかった。」


 雷蔵の前に男が立っている。
男は雷蔵とそっくり同じ顔をしているのであるが、その顔を見ても雷蔵は別段驚かなかった。雷蔵とそっくり同じ顔をしたその男の名前は三郎といって、雷蔵は三郎という人物がごく近く、おそらくは自分の生活圏内に存在することをずっと知っていた。
 なぜなら雷蔵も外を歩く度に行き交う人が自分のことを「さぶろう、さぶろう」と呼びとめることに当然気づいていたからである。


「それで私はこの町に私とそっくり同じ顔をした男がいるなと知ったのさ。それからはもう、ただ君に会いたくて仕方なかった。」

そういう風に思ってもう何年になるかな。三郎は指を折って数え始めた。夕暮れ、やたらと本ばかり詰まった学生鞄を抱える雷蔵の隣にぴったり寄り添って歩く。重たいだろう、と鞄に手を伸ばして受け取って、印字された学校名を読み取るまで、ごく自然な所作だった。

「僕もお前のことは気づいていたよ。本当に、よく呼び間違えられるんだ。三郎。」

 三郎、と雷蔵の口から呼ばれて三郎はにやぁと笑った。見分けがつかない位自分とよく似た人間が自分の名前を呼ぶのを愉快だと思うらしい。まんまるい目が狐の様に細くなって、なんだ不気味な笑い方をする男だなと雷蔵は思った。
三郎は雷蔵にぺったり寄り添って歩く。

「だけど不思議だと思わないか。」
「なにが?」

 雷蔵はそっけなく言葉を返しながら三郎の手から鞄を取り返す。駅に向かって電車に乗って2駅離れた自宅の辺りでは雷蔵はなかなか三郎とは呼び間違えられなかった。雷蔵は帰路を辿る最中である。


「君も私ももうずっと互いを意識していたのに実際会ったのは今日が初めてということさ。」


 三郎は首を捻った。
三郎が雷蔵と、雷蔵が三郎と呼び間違えられるのは実に頻繁だった。極々狭い範囲の中に、互いは居ると分かっていた。三郎はならばその気にさえなれば雷蔵を探してやるのは簡単だろうと思っていた。ところが実際、雷蔵というのに出くわすまでに、数年もの月日が掛ったのだ。不思議だと三郎は言う。

「なにも不思議なことないじゃないか。」

雷蔵は言った。何のことはない、三郎が雷蔵を探しまわっていた数年来、雷蔵は三郎に見つからないよう逃げ回っていたのである。


「この町に僕と同じ顔をした男がいるなと知ってからね、それからはもうお前に会いたくなくて仕方なかった。」

だって気持ち悪いだろう、と言い捨てて雷蔵は逃げた。というよりは逃げ去るつもりだった。
ところがその襟首を三郎はがしりと掴まえたので雷蔵はうろたえる様にその場に立ち尽くした。三郎は、怒るか悲しむかするかと思ったら笑っている。愉快そうで幸福そうだ。


「なるほどここ数年私たちは鬼ごっこをしていたわけだ。」


 ねぇ君、鬼ごっこに負けた代償はなんにすればいいだろうか。
雷蔵はわけもなく数年逃げ回ったのは己の自己防衛本能に違いないとこのとき確信したのだが、捕まってしまっては全て意味の無いことなのだった。


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