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眠れる森 鉢雷


▼眠れる森




 雷蔵が帰ってこない。
三郎は枯葉の降り積もった地面を落ち着きなく何度も踏んだ。月の無い夜である。その只でさえ暗い闇夜に、三郎は昼間でも日の滅多に差さない森の中を歩き回っている。
 雷蔵が帰ってこない。

三郎は口の中で不安気に呟いてまたうろうろと木々の間を歩き回った。
らいぞう、らいぞう、らいぞう、
三郎は最早迷子の子供の形相で泣くように雷蔵を呼んでいる。そうして声が疲れて嗄れてきた頃、三郎の声に重なるように「さぶろう」と呼ぶ声が聞こえているのに気がついた。
三郎は「らいぞう、らいぞう、」と言うのを一度止めて耳を澄ました。

するとさぶろう、さぶろう、と呼ぶ声がやはり聞こえる。目を凝らせば暗闇に飲まれてはっきりしないがうっすらと歩き回る影が微かに見えた。

「雷蔵!」

三郎はもうあまり出なくなってしまった声で必死に叫んで走る。雷蔵らしき影は何かを探すようにきょろきょろと森の奥へ奥へと進んで行ってしまう。こんなに呼んでいるのに!
三郎は暗闇の中、何度も小石や木の根に躓きながら、ようやく雷蔵に追いついてその腕をきつく掴んだ。


「どうして逃げるんだ、雷蔵」

すると雷蔵はきょとんと目を丸くして三郎を向き直った。

「おかしいねぇ、それを僕もお前に聞こうとして追いかけていたんだよ」

雷蔵が指差す先には只々暗い闇が広がるばかりである。



     


     

     

08/11/2

Imagesong:プラスティックトゥリー「眠れる森」

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