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真っ赤な糸 鉢雷


▼真っ赤な糸




 「今まで黙っていたんだが、雷蔵。実は私には見えるんだよ」

 三郎は真面目な顔をして小指を翳すので僕はその指をまじまじと見詰めてみた。どんなに一生懸命見つめてみてもそこにはすっと真っ直ぐに伸びた三郎の指があるだけだ。僕は三郎の言葉を疑おうか頭を疑ってやった方がいいのかでとても悩んだ。
 悩んで三郎の顔と指とを何度も見比べていると三郎は随分焦れた様だった。

「見えないか?ほらここの指の根元からこう・・・赤くて細い・・・糸のようなものが・・・」
「あはは」

 思わず笑ってしまったがこれは不味かったようだ。三郎は唇の先を尖らせて不貞腐れている。・・・人の顔でそんな表情をされるととても困るんだが、三郎。
 それに三郎が見えると言い張る糸の形状を説明するのに必死に手指を動かしてああでもないこうでもないとやるものだから笑ってくれるなという方が酷というものだよ。ああ、でも決してお前を馬鹿にしているわけではないんだよ。なんだかとても好ましく可愛らしく見えたんだよ。分かってくれるね。

「三郎、分かった。分かった。三郎の言うことを信じるよ。」

そう言うと尖らせていた三郎の唇がへらりと緩んで、もう途端に機嫌の良い子供みたいな表情になってしまった。

「そうだろう?それでこの糸はと言うと・・・」

おや、糸の話はまだ続くのかい?
僕はまた噴き出してしまいそうになるのを堪えてなんとか微笑む程度に取り繕うことに成功した。

「なんと雷蔵の指に繋がっているんだ!!」

だから生涯私たちが離れること等無いのだよ、例え姿が見えなくなっても繋がっているのだよ、と誇らしげにお前は言って僕はなんだかもう泣いてしまいそうになったよ。

本当を言うと僕はお前が優しいからそんな嘘をついたのではないかと思っているんだ。
でも嘘だって良いから僕はお前の言葉を信じることにするよ。いつかお別れの日が来ても僕はお前の言葉を信じていることにするよ。

08/11/05

Imagesong:プラスティックトゥリー「真っ赤な糸」


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