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ループ/毎年五年生を繰り返す二人。


▽ループ



 


 学園の子供たちにとって未来はとても暗いのだ。
将来彼らは友と別れるだろう、友と敵になったりするだろう、人を騙したり傷つけたり殺したりが仕事になるだろう。傷つけられたり殺されたりするだろう。けれど学園の子供たちは先を憂いたりは余りしていないようである。平和で楽しい一年を過ごしている。


 ところでそんな学園のあるひと部屋で二人の子供が向き合っている。不破雷蔵と鉢屋三郎である。二人はそっくり同じ顔を並べて向き合っているのだが、その顔は雷蔵の持って生まれてきたもので三郎の方はそれに良く似せた変装である。雷蔵は三郎が実際どんな顔をしたものか知らない。
 ついでに言えば雷蔵は三郎の素性と呼べるものは何も知らないのである。それでも二人は今のところ恋仲の様な関係である。手を握ったり愛してると口にしてみたり接吻をしてみたり身体を繋いだりする関係である。今後、どういう関係になるつもりかはたった今三郎が雷蔵に訊ねたところである。


「よく考えてくれ」


 三郎が言ったのでもともと考え込みやすい性質の雷蔵は益々深く考え込んでしまう。雷蔵は三郎が好きである。一年と一寸先の卒業後も連れ添って、一生添い遂げたって構わない様な気もする。ところが三郎は果たしてそれで本当にいいのか、等と聞いてくる。


「君は私が何者でも良いと言うが、本当に私がどんな姿をしていようとどんな生まれだろうと、平気だと言えるかい?極端に言えばもし私が鬼か化け物で世に仇成すだけの生き物で、私と雷蔵が結ばれる代わりに罪の無い千人の人間が死ぬとして、君は私を好いてくれるかい?」

 三郎は大真面目な顔である。雷蔵は三郎のことは性格やら癖やらの他何も知らないので、三郎が何故そんなことを言うのか全く分からない。よもや、本当に鬼か化け物だというわけでもないだろう。しかしそんな例えを出すあたりおいそれと返事をしても良くないのだろうかと考え込む雷蔵は答えが出せない。


「…一応聞くが、そんな大げさに考えないと駄目かい?」
「其れ位、真剣に考えてくれないと困る」


 雷蔵は腕を組んで眉を寄せてうーん、と唸った。
そんなに考えなくても、これは戯言なのではないか。ここでうん、と言ってもそれは恋人に星を取ってきてやるよと約束する様なもので、額面通りの意味なんかないのではないか。まさか雷蔵の返事一つで関係ないような千人が実際に死んだりはしないだろう。しかし三郎も意味なくそんな例えを持ってくるだろうか。やはり真剣に覚悟を持って返事をしてやらねばならない。だけど、それだと容易く答えが出せない。
 雷蔵は両手で頭を抱えて目を瞑ってうーん、うーん、と唸っている。三郎は随分長い間そんな雷蔵の様子を黙って見守っていたがやがて制止の言葉を雷蔵に呼びかけた。



「雷蔵。今日はもういいから考えるのはやめてくれ。また今度改めて同じことを聞こう」
「だけど、」


雷蔵は俯いていた顔を上げて、困ったように眉を寄せた。


「だけどあまり時間がないんじゃないか。一年と少し後には卒業するのだから」

 次の春が来て、更に次の春が来たら学園を出て行かねばならない。早々腹を決めなければならない。
そう雷蔵は言うのだが三郎はそれ程焦っては居ないようである。時間は半永久的にあるのだと言う。
 

「いや、時間は幾らでもあるからいいんだ。次の春もその次の春の後も、その次の春がきても私たちの卒業には一年と少し時間があるのだから。」


 雷蔵が首を傾げると三郎は得意満面にやりと笑って言うのだ。


 「なんたって私は天才だから」


 君の為に時間を止めるなんて造作も無いことさ。


そういうわけで学園の子供たちは今日もぐるぐると終らない楽しい一年を過ごしている。



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