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まるで暗示にかける様/ちらっと卒業後。具体的描写は無いですがやってます 鉢雷


▼まるで暗示にかけるよう




 一瞬の迷いが命取りになる。忍にとっては特にそうだ。そんなことは分かりきったことであったのに僕は物事をすんなり決められない癖があり、その癖はとうとう卒業まで治らなかった。忍術学園の先生方は内心、僕が忍を続けるなら哀れ、長生きは出来ないであろうよと思いながら門出を見送ったらしい。
 そこで卒業後の今も尚、立派とまではいかなくともそれなりに忍を続けている僕が、学園の近くまで足を運んだ折にふらりと挨拶に寄ったのを見て「なんだ、生きていたのか」などと凡そ教育者にあるまじき発言を恩師が吐いたとしてそれは詮の無いことだった。


 迷うことをやめない僕は、誰もが思ったとおり早々に戦場ででも死んでいた筈だった。
三郎が居なければ。

 彼は僕の優柔不断を比較的温かな眼で見てくれていたが、ただ一つの点においていつも非常に心配していたようだった。心配というのは僕がいつか大事な局面で判断を手間取り命を落すのではないかということだ。
全くそれは想像に難くない話でぞっとしない。

 そうはならないように三郎が学園生活の日々の中で毎日毎日僕に吹き込んだ声音は、今ここで耳にしてるかのように鮮明に思い出すことが出来る。


「雷蔵。雷蔵。どうか死んでくれるなよ。危険かそうでないか迷ったら、必ず用心する方を選んでくれ。挑むか逃げるかで迷ったときは、必ず逃げる方を選んでくれ。隣に居る奴かお前の命が失われるなら、どうか迷わずお前の命を守ってくれ。」


 切実だと言わんばかりの顔と声色で三郎が訴えたことを思い出して、僕は自分の耳元まで血が上るのを自覚した。
なぜなら、あの馬鹿めそれらの台詞をいつも寝所で吐いていたのだ。まぐわいながら。
三郎の言葉を鮮明に思い出してしまうのと同じだけ僕は三郎との行為を思い出す羽目になるのだ。
 なんてさもしいことだろう。
 けれども僕の脳は既に僕の肌を這い回る三郎の手の感触を記憶の中から引っ張り出して辿り始めている。



 滑らかな指の感触。同じ実習をこなしているとは思えないほど、三郎の手は僕なんかより傷や荒れが少なかった。変装のためにも目立つ傷なんかで特徴を作りたくなかったのかもしれない。それにしたってこれといった傷を作ることなく年々厳しくなる実習をこなすのは至難の業なはずだった。

 三郎の愛撫はとにかくその手で触れることから始まる。愛撫と呼べるのかも分からない。
両手で顔の輪郭を確かめるように包んで、その指で頬から顎の形、耳、瞼、鼻、唇、と擦り切れてしまうほど丁寧に辿る。まるで指先に僕の形を暗記させてしまおうとしているようだった。

 そうして僕の顔の皮膚を触りつくしてしまうとようやく満足したように唇が降りてくる。
先ほど彼の指にベタベタと触れられた唇は今度は柔らかな上下の唇にやんわりと食まれ、暫く唇の表面を舌が這ってそれからするりと舌が口内に侵入してくる。

三郎の舌は指先と同じほどに研究熱心と見えて、奥歯から順に歯の数を数えるみたいに一つずつ辿ったり口内の壁全てを舐め尽してしまうようにと執拗に貪るので、僕と三郎は何度も口付けの角度を変えながら途方も無く長い接吻をしなければならなかった。

その合間にも三郎は指を休めることなく首から下のパーツを辿っている。首の筋を通って鎖骨の上で指を行ったり来たりさせて、そうした緩やかな前戯だかなんだかは全身に及び、三郎の長い指が後孔を解しにかかる頃には僕はすっかり力が抜けて横たわりながら浅い呼吸を繰り返すしか出来なくなってしまうのだった。

 そこに至ってすら三郎は愛撫というよりはより良く変装して見せる研究のために僕の身体を調べておきたいとかそんな目的で触れているのではないかと勘繰ってしまうほど、丹念に熱心に敏感な粘膜を余すところ無く触れていくものだから僕は堪らなくなって彼の名前を呼ぶ。
さぶろう、

 すると、彼は此方を真っ直ぐに見返して、先ほどから何処にやって良いか分からず迷っていた僕の手に自分の手を重ねてしっかりと指を絡ませて不意に言うのだ。


「雷蔵、約束を、してくれないか」


そして、迷うな、と三郎は言うのだ。
 僕はどうして三郎がこんなときにそんなことを言うのか分からない。それより早くもう一度触れてほしくて仕方が無いのに、三郎はしっかりと握り合った手に力を込めて雷蔵、雷蔵、と五月蝿く喚くから耳を傾けざるを得ない。


「例えば隣に居る人間の命か自分の命かなら迷わずに自分の命を守ってくれ。隣に居るのが誰であっても」


隣に居るのが私であっても、
と、そういうことを言っているのだ三郎は。それは普段ならば俄かに了承しがたい内容である。
三郎はそれも承知でそれでも僕にうん、と言わせるためにまたその手指で僕の身体を撫でるのだ。もう既に脳みそまでどろどろに溶けてしまってるんじゃないだろうかと思うほどに煽られきっている僕はそれでもう「分かった」と答えるしかなくなっている。
分かった、分かった、必ずそのようにするから、どうか、

 その先にお約束の懇願の言葉があって、それから二人で溶け落ちて一つになろうかと云うほどに緩慢にゆっくりと身体を繋ぎあうのだった。そんな日々を数え切れないほど繰り返した。



 そうして三郎が共同生活の大部分をかけて僕に刻み込んだ言葉はしっかりと僕に染み付き、条件反射の速度で行動に現れる。
これまで幾つか厳しい状況にも直面し、幾つかのものを秤にかけて、いくつかのものを失ったがこの身一つなんとか失わずに今日に至る。それは勇敢な生き方ではなかったが、忍としてはそれでいい。三郎が良いと言うのだからそれで良い。


 そんなことを考えていたからか、折角学園を尋ねたというのに先生方へのご挨拶も疎かになってしまった。立派になった姿を見ていただこうと思っていたのに、かえって礼儀知らずになったと思われないか心配だ。
 それなのに、先生への挨拶を簡単に済ませて帰路につく僕の足取りは酷く浮き足立っていて嫌になってしまう。
嫌になるなんて言いながら僕の口からは勝手に笑みが零れた。

言われたとおりこうして無事に帰ってきた僕のことを、三郎は今日も笑って迎える筈だ。



08/10/30

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