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思うに昔からしつけというのが出来なかった。
餓鬼の時分、それなりに裕福だった実家には番犬用に犬が居て良く懐いた一匹を布団に入れて寝ては咎められた記憶がある。確かお前は犬を駄目にすると言われた筈だ。成る程、今なら良く分かる。
俺は目を覚まして早速、布団の中に図々しく潜り込んですぴすぴ鼻を鳴らしている男の襟首を掴んで襖の向こうへ放り投げた。
「ぎゃあ!」
間抜けな悲鳴の後にごとん、と言う音が響いたから男は襖の先の縁側を越えて更に庭先に落下したと察する。
俺はさっさと襖を閉めて布団に戻り二度寝を決め込むから詳細は知る気が無い。俺は現在至って気分が悪く、身体が怠く、腸が煮えくり返り、尚且つ死にそうに眠いので布団を被って目を閉じる。
なんでこんなに身体がかったるいかと言えば未だ布団に匂いの染み付いているしつけ不足の阿呆犬に押し倒されてガツガツ食われたわけで、俺は残飯的瀕死の身体を労わって静かに一人で寝れる空間を確保するに至る。
と、瞼が重くなったところでぎゃんぎゃんと喚きながら犬が戻ってきた。凡そ忍びらしくないじたばたとした物音と共に襖が揺れる。あの阿呆め。というか何故俺はその阿呆な犬に犯されているのか。甚だ謎じゃねぇか。
「ちょ、何するんですか入れてくださいよう!」
「入ってきたらぶっ殺すぞ手前ぇ!!」
盛大に怒鳴り返すと喉の奥がびりびり痛んだ。腹立たしいがひぃ、と襖の向こうで悲鳴が上がったので僅かに溜飲が下がる。
それっきりしん、と辺りが静まり返ったから俺は再度目を瞑る。ようやくの静寂。
と思ったら微かに何か聞こえている。
かりかりかりかり、かりかりかりかり、
「猫か手前は…」
背を反転させて伺い見れば障子襖にはまだ人影が映っていて、うちの阿呆な部下が襖の合わせを爪で引っかいているらしい。
ただため息が出た。
俺は無視を決め込もうとしたのだが、このかりかりが如何にも五月蝿い。しかし思うにここで押し負けるのが良くない。かりかりかりかりを瞼の向こうで聞き続けること僅か。
「ぎゃっ痛っ!痛ぁ!刺さった!ここのささくれみたいなのが刺さっ…!」
「あー、もう五月蝿ぇよ!!入って来い!!」
引っかき続けて毛羽立った木戸の一部に爪を引っ掛けたらしい。あんまり五月蝿ぇから怒鳴り返したところ弾丸のように飛び込んできて俺の腹の上に乗る重みに故郷の犬を思い出した。白いころころした子犬だったのにあっという間に大きくなって押しつぶされそうになったもんだ。…重てぇよ、馬鹿。
「手ぇ、見せてみろ」
馬鹿の指先には木目の削れた小さい破片が刺さっている。爪で摘むには少し細かすぎるから指を口に含んで破片を吸い出す。ぷっ、と床に吐き出したところで顎を取られた。口を吸われた。舌を入れられた。胸板を弄られている。更に腰をぐりぐり押し付けてくる馬鹿の下半身の何かが当たっている。嗚呼、そういうとこまで馬鹿なのか。今更ながら呆れた。
「っは、……おい、こら。勃ってんぞ。」
「はい!だってアンタえろいんですもん!」
明るくはきはき答えてんじゃねぇよ。眩暈がしてぶつっと頭の中の何かが切れた。
ぐらぐら腹の内を煮え繰り返らせて拳を握る俺の手が見えないわけは無いだろうに阿呆は首を傾げてきょとんとしているから嘆かわしい。これもしつけ不足が祟ってか。
「こ、んの…馬鹿犬がぁ!!」
「痛っあ!!なんですぐ殴るんですかぁ!」
うっせぇ、しつけだ。
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