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床に毟り取られた包帯が落ちている。雑渡の火傷だらけの顔を、いつもの包帯の代わりに今は白粉が隠している。
雑渡は自分の爛れた顔面に一生懸命といった様子で甘い匂いのする白粉を叩いている男を胡乱な顔で伺い見た。
「ねぇ、なんの罰ゲームなの」
声を掛けられた男は墨で丸く仕上げた眉をちょっと顰めただけで、雑渡の言葉を無視した。男の元々の眉毛は剃刀で全部剃り落としてある。酔狂だと雑渡は思った。
照星、という名のその男は、高く鼻筋の通った己の顔に白粉をはたいて、眉を書き、酷薄そうな薄い唇には真っ赤な紅など引いている。火縄銃の名手と名高い男の爪は、無粋な殺人道具の扱いなどで割れぬ様爪紅で固く強化されている。
その赤い爪の指先で照星は雑渡の顎を引っ掴んで左右を向かせた。白粉の仕上がり具合を確認しているのである。
「その変な眉毛書いたら殺すからね」
雑渡は顎を掴まれて不機嫌そうに、照星の指を振り払うと白く長い指先に歯を立てた。けれど途端、顔を顰めてぺっと吐き出す。
「まずい」
「白粉だ。火傷で指が荒れているから、指先に塗ってある」
白い顔に赤い口紅で女のように綺麗な顔の照星は、常の仕事で火縄の煙を吸い込むから声だけ低く枯れている。
「君おかしいんじゃない」
雑渡は苦い舌をべっと突き出してみせる。すると照星はそこに飛びつくように舌を絡ませて接吻に持ち込むのだ。首の後ろを押さえられている雑渡のひび割れた唇と遊女のように赤い照星の唇がぴたりと重なった。
突き出した舌を上下の歯に挟まれて舌先をぢゅっと音を立てて吸い上げられる。指先で首の後ろを擽られてなかなか官能を揺さぶる口付けではある。けれどやっぱり口紅がべたべたして、雑渡には不愉快に思えた。
唇を離すと紅が雑渡の唇にも移っていた。
赤い色の乗った雑渡の唇を照星は小指の先で幾度かなぞる。紅の形を整えられているのだと気がついて雑渡はその手を叩き落した。子供が駄々をこねる様に首を左右に振る。
「嗚呼、嫌だ嫌だ!」
雑渡は手の甲で化粧を拭ってぐしゃぐしゃにしてしまって、それでも飽き足らず火傷跡と傷あとでぼろぼろの顔面に爪を立てて掻き毟る。弱い皮膚が裂けて血が滲んだ。照星が心底腹立たしげに舌打ちをした。
「何故貴様はそうなんだ」
照星は血に赤く染まりつつある雑渡の指先を捕まえたが手遅れで、折角傷を綺麗に隠して作ってやった雑渡の顔はずたずたの化け物になっていた。互いに暫く睨み合う。
「覚えているぞ」
恨みがましい様な声が照星の唇が紡いだ。
「昔、私がお前を美しいと言ったらお前はその場で自分の顔に熱湯をぶちまけた」
ははっ、と雑渡は高らかに笑った。照星は恋敗れた男の顔をしているからざまあみろとでも思っているらしい。
「だって虫唾が走るんだもの」
紅の味が口の中に入ったと言って雑渡はピンク色の唾液を照星の真白い頬に吐いて捨てた。
補足:
学生時代同級生で照星さんはまだ顔がつやつやしてた頃の雑渡さんが好きだったよみたいな感じで書いてみましたが説明が全く入りませんでした。雑渡さんの顔の怪我はこの上に更に長年の色々が積み重なっていて、ばったり再会した照星さんは大ショック。「ちょっと面貸せ(メイクしてやる!!)」、という話です。
照星さんはコスメマニア。
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