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(5)青姦(竹久々)/ほのぼの…?


 家出兎など追いかけにいった竹谷を更に追いかけて久々知は山の中に入ってきた。
兎は途中狐に掻っ攫われたりして、それを追いかけて取り返したりしていたから随分深く山の中へ入ってしまっていて、到底日暮れまでに学園へは帰れない。竹谷は山の中で夜を越してしまおうと、大きな洞穴をみつけて潜り込んでいたのだが、そこへ久々知が泥だらけでやってきたから吃驚してしまった。


「どうした。なんで付いて来た。」


 久々知は動物なんか好きでないので、兎を心配して来てくれたのでないことは確かだ。竹谷がきょとんとしていると傍らで山犬がぎゃんぎゃん吼えたてた。洞穴には山犬が住み着いていたのである。竹谷は不思議と動物には好かれてしまうので、寛いだ様子の山犬の姿になんの疑問も思わず自分も寄り添って一緒に丸まっていたのだが、野生の獣は本来は当然自分の住処に人間なんかやってきたら吼えるのだった。


「それ、黙らせろよ。」


 久々知は唸っている山犬を嫌そうに見てたじろいでいる。久々知は猫を見ても兎を見ても大体嫌そうな顔をする。


「そうじゃないだろ。俺らがこいつらの縄張りを邪魔してるんだから、もっと謙虚にならないと駄目だ」


 竹谷は山犬の頭を抱いて、勘弁してやってくれよ、なんて言っている。
久々知はちょっと考える顔をしたあとしゃがんでなにやら包みを広げると、真面目な顔で握り飯をひとつ前に置いた。


「買収かよ」

 竹谷はぷっと噴出したのだが、山犬の方は案外それで満足するらしくって握り飯を咥えてがつがつと食い始めるのでなんだか可笑しかった。獣だってなかなか現金だ。


「本当ははっちゃんに持ってきたのに。」


 山に入った竹谷が夕飯時まで帰らないから、腹をすかせているだろうと食堂でわざわざ握り飯を作ってもらって山へ探しに来たらしい。山犬が吼えなくなったので久々知も洞穴にもぐりこんできて竹谷の隣に座る。


「俺だったら、山の実食ったり魚取ったり出来るからいいんだよ」


第一ひと晩くらい飯を食べれなくたってどうなるもんでもない。竹谷がそう言ったら久々知は真顔で変なことを言う。

「はっちゃんは一度野性に返したらもう戻ってこなそうだ」
「返したらって俺、元々野生かよ」


 竹谷は笑い出したが久々知は無表情で竹谷をただ見返すだけなので気まずくなってしまう。
山の上は夜、冷えるのである。竹谷が久々知の肩を引き寄せて抱いてやったら久々知は傍目に見てすぐ分かるくらい緊張して身体を固くしていた。あまり人付き合いをしないから久々知はスキンシップが苦手だ。それを可愛いなと思って竹谷が眺めていたら、なんとなくいつもお育ちが良さ気な久々知の白い頬に泥が付いている。
 子ども扱いしたくなって額にちゅっと口付けたら久々知は無表情に赤くなった。


「来てくれて良かったよ」


竹谷が言ったら久々知の顔はぱっと明るくなる。


「山犬に飯やってくれて良かった。こいつを食われないようにするのが大変だったんだ」
「こいつ?」


 久々知が首を傾げたら竹谷の背中から足を縛られた兎がぴょこっと顔を覗かせた。久々知の眉が反射的に寄る。こういう如何にも可愛げな頼りない動物は、すぐちやほや可愛がられるから嫌いだ。
 
「冷えるだろ。もっと寄れよ」

 久々知の憮然とした顔なんかには気づかないふりで竹谷は久々知の唇を吸って鎖骨を吸う。それから向かい合わせに久々知の身体を抱いたまま後ろに倒れて横たわった。


「汚れると可哀相だから、お前、上に乗ってくれよな」
「は…?」

 竹谷の上に身体をぴったり合わせる様に乗り上げて久々知は目をぱちくりさせた。折角だから、と言って竹谷は久々知の着物の帯を器用に解き始めている。

 ところで傍らで兎がぴすぴす鼻を鳴らし始めたから五月蝿いなと思ってみたら、握り飯を食い終わった山犬がすぐ側でくつろいでいた。腹はもう満たされているらしい。
 二匹の獣に挟まれての性交はなんだかもう状況だけで獣臭い。



「獣になったみたいだ」


久々知がぼんやり呟いたら竹谷は楽しそうに笑った。


「そりゃ、野生的なセックスが出来るな。」


 妙にハツラツとした竹谷の口ぶりに、こいつは野性に返したら駄目だと久々知は改めて思った。


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