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(47)風俗嬢/※伊作が男娼とか 雑伊


学園が長期休暇に入るから伊作も実家に帰るのだと、雑渡は聞いていた。
そこで雑渡は、自分の仕事先で偶然伊作に出くわして首を傾げたのである。伊作はとある売春宿に居た。



「こんな如何わしいところになんの御用ですか」



 伊作はピンク色に花やら鳥やらの柄の入った派手な女物の着物を着ていて、目元と口に紅を差している。
伊作は雑渡の前に座るとにっこり笑って丁寧に床に指をついて頭を下げたのだが、頭を下げたまま唇から零れたのは苛々としたような低い声だった。存外器用な子だな、と雑渡は思ってしまう。


「君こそこんな如何わしいところでなにしてるの」


 言いながら雑渡がちょいちょいと伊作を手で招くと伊作は細い眉をきゅっと不機嫌に寄せた後、長い着物の裾を肌蹴させないように指で押さえて立ち上がった。するすると雑渡のところへ歩いてきて、身を寄せるみたいにして傍らに腰を下ろす。いつも学園で会う伊作にはちょっと見かけない女の所作である。
 部屋には簡単に酒の用意がされていて、伊作が猪口を雑渡の手に持たせようとしたのだけど雑渡はそれをやんわり手で制して断った。雑渡は仕事中なのである。


「言いませんでしたか?僕ら学園の子供は長期休みは実家に帰って家の御手伝い、と決まっているんです。」


伊作は断られた酒を自分の方に盆ごと引き寄せて、自分に酒を注いだ。


「あ、行儀悪いんだ」


くく、と雑渡が笑うと伊作は軽く舌打ちした後で、わざとらしく雑渡の胡坐をかいた腿に手を置いて撫で回しながら女声を出したりする。


「あたしも頂いてよう御座いますか、くせ者さん」
「あっはははは!」


雑渡は酷く可笑しいと思ったらしく膝を叩いて笑っている。
伊作は憮然とした顔で猪口の酒を一口に飲んでしまうから、次の杯は雑渡がお酌をしてやった。


「いいよ、普通にしてくれて。…実家ってここなのかい?」
「ええ、まあ生まれは普通の農村だったんですけどね。僕の不運は生まれつきなもので。」


売られちゃいました、と事も無げに伊作は言ってまた杯を煽る。
けれど伊作は元々非常に貧しい家に生まれていたので食事やら着物やら与えられて、ついでにちょっと特殊でも学校なんて通える身分を考えたら自分のことを幸運とも思っているのだ。ところで、


「雑渡さんは、今日はセックスをしに此処へいらしたんですか?」
「…やめてくれない?そういう目。私はただのお守りだよ」


 雑渡は襖の向こうを首でしゃくった。廊下を隔てた一つ向こうの部屋には確かに雑渡と一緒にやってきたもうひとりの客が来ているのを伊作も知っていた。


「うちのお殿様は戦も女も…女の格好させた男も好きでね。」
「とっ…、まさか」


 伊作は目を丸くした。大衆向けの金さえあれば誰でも御座れのこの宿には素性の知れない不特定多数が日々ぞろぞろ出入りしている。そんな場所に一国の主が、などと不用意にも程があると思われたのである。
伊作は呆れた様に溜息を吐いた。雑渡はといえば当に慣れてしまっているのか、特に心配もしてない様子である。


「なにかあっても知りませんよ。」
「うん、だからこうして護衛なんてしてるんだよ」


そうじゃなくて。
伊作は首を振った。


「変な病気になっても知らないですよ」
「え、嘘、ここ危ないの?」

ここでようやく慌てたみたいな雑渡がぱちりと目を瞬くのが滑稽である。さあ、と伊作は白を切って再びわざとらしく雑渡にしなを作ってみせる。


「寝ていきます?」



性質が悪いなァ、なんて思いながらも雑渡は可愛い着物の伊作の肩をしっかり抱き寄せるのだった。


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