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(4)包帯 /雑渡さんに怯える保健委員長 雑伊


夜に紛れて度々訪ねてくる雑渡昆奈門という男に伊作は包帯を巻いている。
夜半の保健室のことである。


「伊作君は夜はいつも保健室で過ごすのかい。いつ訪ねてきてもここに居るようだ」


くるくると手首の辺りから初めて今は肘辺りまで包帯を巻き付けている伊作はちらりとも顔を上げないで、たまたまですよと応えた。


「僕はとんでもなく不運なんです」


つまり伊作は出来ることなら雑渡には会いたくないのである。雑渡は面白そうに目を細めると伊作の顔に深くかかっている前髪を掻き上げようと手を出した。


「あっ・・・」


 伊作はびくっと肩を揺らすと慌てて軽く身を引いた。それでも巻きかけの包帯を放したりはしないからふたりの距離は依然と近い。
雑渡は届かなかった指を手持ちぶさたにひらひらと振った。


「前髪邪魔そうだったから」
「・・・お構いなく。」


伊作は臆病な動物のように神経を尖らせながら雑渡に近づいて、包帯をくるくる巻くのを続け始める。
腕を巻ききってしまって、次は胸から腹にかけての包帯を巻きにかかる。伊作の手が小さく震えているのに雑渡は気づいてしまった。


「怖いのかい?」
「・・・。」


 伊作は答えずにただごくりと喉を鳴らした。
相変わらずちらりとも顔をあげなくて早く終わらせてしまおうと言わんばかりにくるくるくるくる包帯を巻いている。



「私は伊作君に会いに来たけど包帯を巻いてくれなんて頼んではいないよ」


そこで伊作はやっと顔を上げてきつい目で雑渡を見上げた。


「だったらもっとマシな状態で来てください。こんなに血や膿の臭いをぷんぷんさせて・・・。僕は保健委員ですよ。」


その保健委員というのが伊作にとってどれほどの意味を持つのか雑渡にはまるで分からない。
 胸から背に向けて包帯を回している伊作の腕が雑渡の身体を抱き込むみたいに近づくのを見計らって、雑渡は伊作の背を不意に抱き寄せてみた。


「ひっ、」
「それがこんな震えながら包帯を巻いてくれる理由になるのかい?」



 伊作はぴたりと一切の身動きを止めてしまう。


「私の何がそんなに怖いのだろう。顔かい?敵の城の忍び組頭という身分かな。・・・ああ、君はそういうことには無頓着だったね。」



ぐっと顔を覗き込まれて伊作は泣き出しそうな目をした。
唇を小さくぱくぱくと動かした末、出てきたのは蚊の鳴くような声だった。


「怖いですよ。だってあなたいつも僕の前で欲情していらっしゃるから。」
「成る程」


あはは、と声を上げて雑渡は笑った。その通りだよ、と雑渡が言えば伊作は口元をひく、と引き攣らせる。



「ところで君は、私が今すぐ離れないと犯すと言ったらどうするんだい?」



 ガタガタと包帯を握りしめたままの伊作の指は激しく震え始める。それでも逃げていく様子がないから雑渡は伊作の首筋に顔を埋めてべろりと舌で舐めてやる。
ぞっと背筋を震わせた伊作は、けれど意を決したように雑渡の身体に包帯を巻いていく。
 
 緊張と恐怖で限界の伊作の目からはぼろっと訳の分からない涙がこぼれたが、結局それがいつも伊作の答えなのであった。





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