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(32)監禁/頭が病んできたふたり 雑伊



どうして僕を捕まえるのですか。
伊作は言った。

 伊作は雑渡から逃げて捕まって殴られて鼻血を垂らして、それから窓の無い部屋に閉じ込められて犯されてぐったりしている。


「君が逃げるからじゃないかな。」


 雑渡が伊作を眺めていると伊作はゆるゆる身を起こして壁際まで張っていってぺたぺた手のひらで壁を探って出口を探している。逃げるから追うのだと、今言ったばかりなのに伊作はもう逃げることを考えている。思うに伊作はここ最近少しおかしくなった。何故なら雑渡は幾度も脱出を図る伊作を幾度も捕らえて同じ部屋へ押し込めている。窓の無い四角の部屋には出口が一つしかないのを伊作はもう知っても良い頃なのに、何度も同じところから逃走を始める。何もない壁を叩く。


「いいえ、僕が聞きたいのは」


 伊作が何を聞きたかったのか雑渡は聞くことが出来なかった。黙って壁を引っ掻くことに専念してしまったからだ。思うに伊作はおかしくなってしまった。いっそノイローゼ気味である。以前は恋する相手を見る様に雑渡に微笑んでいたのに、伊作は壁を叩いて引っ掻いて出口ばかりを探している。

かりかりかりかりかりかり、

天井裏に鼠でも走っているのかと思ってしまう。小動物的な音が小うるさいので雑渡は伊作の手を取ってやめさせた。木製の柱が削れて細かくなって伊作の指先に刺さっている。これは痛そうだ、と雑渡は思った。


「伊作君はなんで逃げるんだい?」
「あなたがどうして追ってくるのか知りたいんです。」


 堂々巡りだ。ちっとも会話が成立しない。
思うに、雑渡は考える。若しかしたらおかしいのは自分の方なのかもしれない。伊作の指に刺さった棘を歯で挟んで抜いてやった。ありがとうございます。伊作は素直に礼を言う。とても正気に見える。


「それでは、僕は」


雑渡が伊作の元へ寄ったのでさっきまで雑渡の背に隠れていた出口を伊作は見つけたのである。伊作が立ち上がって歩いていこうとするのを雑渡の手が呼び戻す。柔らかな髪を掴んだら、案外やっとのことで立ってたらしくて引かれるままに、倒れた。


「君は頭がおかしいのかい?」


 雑渡は聞かずには居られない。むしろ此方がノイローゼだ。
伊作は不思議そうにぱちくりと瞬きして雑渡に抱きとめられたまま傍らの壁に眼を向けると手を伸ばした。


「またそこから始めるの?」
「これは僕が逃げますよ、というパフォーマンスですから」


 嗚呼、それはちっとも知らなかった。
ところで雑渡が伊作を殴ったのも犯すのも伊作に逃げないでくれと訴える表現手法であることは伊作には果たして伝わっているだろうか。


「どうして僕を追いかけるんですか」
「…伊作君は何を聞きたいの?」



 伊作の問いにはもう答えていたので雑渡はそう聞き返した。
伊作はと言うと雑渡の返答を待っている。
雑渡がひとたび伊作に側にいて欲しいというような台詞を口にすれば伊作はそれで満足だった。
 けれど雑渡は自分でちっともそういう返答に行き着かない。もう伊作は躍起になっている。



「僕はあなたが僕を側に置きたがる理由が知りたいんです」



ちゃんと考えてみて下さい。
伊作は言って雑渡の腕から抜け出そうと、もそもそ足掻いた。


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