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(29)目隠し/目隠し雷蔵の手を引く三郎


 大体、学園から町に出るのに必ず山を越えなければならないのが問題なのだ。鉢屋三郎は不機嫌に唾を吐いた。
三郎は四六時中誰かの変装をして素顔を隠しているのだが、町に出向く暇をなくしているうちにとうとうその変装用の化粧品を切らしてしまったのである。そこで張りつけっぱなしの顔をつけて三郎は町へ出るところであった。そこを運悪く野党などと出くわしたのだ。
 とはいえ三郎は日頃体術なども学ぶ忍び見習いであるから大事無く、却って野党を叩きのめして成敗してくれてやったところであったのだが。



「嗚呼、困った」

 
 三郎は長い手指で顔を覆って嘆いている。野党連中と揉めた折、三郎の変装は汗と返り血とで崩れて二目と見れない酷い惨状になっていた。新しく顔をしたてる化粧道具が、今三郎には無い。
更に困ったことに三郎には連れが居て、学園で同室の不破雷蔵という男と連れ立って町へ行く途中なのであった。
生憎とこの状態で逸れてしまったのだけれど、そういうときの落ち合い方をいつも決めているから合流するのは容易な筈である。問題はこの顔、と三郎は悩ましく頬を撫でた。



 さて、結局もう使い物にならない作り物の顔を洗い流してしまって三郎は素顔でそっと気配を殺して山道を歩いている。思ったとおりの場所に雷蔵の姿を確認できて三郎はそれに背後から慎重に忍び寄っていっているのである。三郎の手には手拭など用意されている。
息を殺してタイミングを見計らい、三郎は雷蔵の背後に飛び掛って後ろから手拭で目隠しをしてしまった。


「っ!」
「…おっと、危ない。雷蔵、私だよ」


 雷蔵は後ろも振り向かず隠し持っていた棒手裏剣を自分の眼を塞いでいる気配の頚動脈に突き立てようとしてくるので三郎は慌てて其れをかわして声をかける。あんまり迷い無く命を狙われるから三郎はちょっとひやりとした。


「三郎?」


雷蔵はちょっと驚いたみたいに動きを止めたので、三郎はその手を取って後ろ手に柔らかく押さえ込んだ。


「じつはちょっとしくじって、今変装をしていないんだ」


 だから今しばらくその目隠しを取らないでくれないか。
請われて雷蔵は戸惑ったように身を捩った。どちらにせよこう押さえ込まれてしまっては諾と答えるしかない。



「大丈夫、私が君の手を引こう」
「そんな成りで僕に町を歩けと言うのかい?」


 それは随分酔狂な図になるだろう。
雷蔵が仕方ないねと頷くと三郎はするりと雷蔵の前に回って、若い娘でも連れて歩くみたいに丁寧に手を取った。


「ありがとう雷蔵。大好きだ。」
「そうかい」


 雷蔵の手を握って三郎は先ほどまでと打って変わって踊り出しそうに上機嫌なのに雷蔵の言葉は素っ気ない。
しかしところで雷蔵の頬がほんのり赤いので三郎はそのわけを聞いてみたのである。


「それはお前、」



雷蔵はきゅっと三郎の手に捕まって歩きながら何でもないような素振りに言う。


「布一枚越しにお前が素顔を晒していると言うからドキドキしてしまうよ」
「はは、雷蔵のえっち」


 帰ったらこうしてセックスをしようか、と三郎が調子に乗ったら雷蔵の手を引く手のひらに思い切り爪を立てられてしまった。




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