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部屋の扉を空けたら、六年生の中在家長次が難しい顔で鎮座しているからすっかり油断していた雷蔵は飛び上がってしまった。
「うわぁっ…じゃなくて中在家先輩、なにかご用ですか?」
背筋をぴんと伸ばして一瞬で優等生らしい顔つきと態度に変わった雷蔵は、そう訊ねた後で長次の肩が震えて笑っているのに気がついた。良く見れば制服の色は雷蔵と同じ紺色なのである。
丸い目をぱちりと瞬いて、それからすぐにそれが同室の三郎の変装だったと気がついて雷蔵は頭を抱えた。
三郎といえば四六時中誰かの顔を拝借している変装の名人であるのに、どうして今更一瞬でも間違えたものか。
「嗚呼っ、久しぶりに騙された!」
ふふふ、と三郎は長次にしては優しすぎる笑い方をした。
さて、何故三郎が長次の変装なんかしているのかという話である。
「先の授業で…火器を使っただろう…?」
もそもそっと聞こえるか聞こえないかの音量で三郎がしゃべるので雷蔵はそれに耳をそばだてなくてはいけなかった。話し方まで真似して見せるなんて相変わらず凝り性だ、なんて雷蔵が思っていたらそういうわけではないらしい。
「煙に、…やられてしまって、こんな声しか出ない…」
三郎は不愉快そうに喉を擦っている。
実習中、三郎の近くに居た生徒が湿気った火薬に火を点けて煙をもうもうとあげさせていたらしい。まあただでさえ煙臭い授業ではあった。
掠れてしまった声では完璧に変装できないと言って三郎は雷蔵の変装を今のところやめているのである。しゃがれた様なごく小さな声しか出ないから、一番違和感の無い中在家長次の変装をしているらしい。喉をやられているわけではないが長次も大体そんな様な話し方をするのである。
「でなければ、誰が…こんな男の、顔なんか…するものか」
「ああ、成る程」
三郎の、といっても今は長次の顔をしているが、その嫌そうな顔を見て雷蔵は納得した。
三郎がなんとなく長次を好いていないのを雷蔵は知っていて、長次の顔にだけは変装することはないのだろうとどこかで思っていたのだ。そこで部屋を開けてすぐ長次の顔を見て、咄嗟に三郎だとは思わなかったのだった。
「しかし拘りを捨てれば…この顔も…面白い」
三郎はふと眉を寄せて、難しげな顔をして雷蔵の肩を強く掴んだ。
不破、と長次が呼ぶ様に雷蔵のことを呼ぶのでここまでの流れは一切無視して雷蔵は緊張たっぷりにはいっと返事をした。もちろん三郎に大笑いされる。
雷蔵はひくりと顔面を引き攣らせながら、赤面した。
「ガチガチに緊張して…素直な雷蔵なんて、可愛くて興奮、してしまうけど」
やっぱりこの男が憎たらしくなるからやめてしまおう。
拘りなんてない様に散々笑った後で三郎は、長次の顔をべりっと剥がして捨ててしまった。下にはもう雷蔵の顔の変装が仕込まれていて、雷蔵はその顔を見てようやくほっとした様な気持ちになるのだった。
※雷蔵は別に長次のことをそういう風に好きではないけど、尊敬できる格好良い先輩だと思っているのでもし迫られたらきゃあってなります。三郎はそれを見て「中在家死すべし…」ぐぬぬ…と思っています。
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