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風邪を引くと殆ど死を覚悟するみたいな気分になる。
といつか三郎が言っていた。
器用すぎて滅多に怪我なんかしない三郎は、痛いとか苦しいとかに滅法弱いのである。いくら器用だって気をつけたって防ぎようの無い病気なんかの類が三郎は大層苦手らしい。いまも37.5度の微熱でうんうん唸っている。
僕は午後のちょっと空いた時間にその看病をしてやっている。
「…熱い、痛い、死ぬ。」
「そうかい?」
僕が枕元に座ったらそれまでぜえぜえ言いながらも寝てたみたいだった三郎はぱちっと目を開いて、熱いだの痛いだの駄々を捏ね始めた。案外誰も側に居ない方が大人しく休めるのかもしれない。今晩は他の友人の部屋に泊まらせてもらおうかと思う。
すると三郎はそんな僕の心を読んだみたいに布団から手を出して僕の袖を掴んだりするのだった。
「里に、弟が居てさ。小さい頃は心細いとこういう風に甘えてきてたよ。」
「…私は子供ではないよ」
三郎は蚊の泣くような小さな声で言って、するっと手を離してしまう。
恨みがましそうな目をしている三郎は苦しそうに呼吸して、額には酷く汗をかいている。あんまり可哀想な様子だったので拭ってやろうと手拭を水で絞って三郎の前髪を掻き揚げたら三郎は駄目、と鋭く叫んだ。
「顔…、見ないでくれ」
三郎は僕の手から手拭を引っ手繰ったきり、それを広げてばふっと顔全体に被せて隠してしまった。
そういえば三郎は今も自分の素顔の上に僕の変装を張っ付けているのだった。汗でよれたメイクを剥がされてしまうのが嫌ならしい。
「馬鹿だな、三郎。窒息死するよ」
仕方ないので僕は手拭を口元のとこだけ捲って出してやった。三郎の唇は全力疾走のあとみたいに荒く息をしていてなんだかいやらしかった。ので、口を吸おうと顎に指をかけたら三郎はまた駄目駄目と言い出す。乱暴されるのを嫌がる娘みたいだ、とか思ったらうっかり興奮してしまったじゃないか。三郎は掠れた声でぼそぼそ何か言ってる。
「…君に風邪をうつしてしまう」
「そうかい?」
お構い無しにちゅっと唇を吸ってしまう。口の中に舌を突っ込んで三郎の舌と絡めたり口蓋を擽ったりしてたら、三郎がばしばしと僕の胸を叩くので五月蝿いなと思ったら三郎は顔に濡れた手拭を被っているから鼻で呼吸が出来ないのだった。
唇を離したら三郎は大きく咳き込んでひゅうひゅうと喉を鳴らして息を吸い込んでいた。駄目だ、興奮した。
「三郎、早く風邪治してね」
僕は早くお前とセックスしたいんだよ。
と言ったら三郎は咽て死にそうになりながら何度も首を振って頷いていた。
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