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その日も雑渡がやってきたから床に転がってダルそうにしていた伊作は着物の裾を自分で手で割って雑渡に向かって足を開いて見せた。
「…やめてくれないかな、あたかも私が君を犯すことにしか興味が無いみたいな態度をとるのは。」
「おや、他にどんな御用がありました?」
雑渡は悲しいね、と首を振って伊作の前に腰を下ろす。伊作の指がまだぴろん、と着物の端を捲っていたから手で押さえてやめさせた。雑渡が伊作に好きだと言ってから、伊作を宥めすかして、脅して、部屋の一つでもあげて側に置くようになってから、伊作は段々ふてぶてしくなっていく。
「だって僕があなたの手当てを拒んだら、僕があなたの為になにかするのを拒んだら、あなたそれしかすることが無いでしょう?」
「会話をしてくれればいいよ。私は君の顔が見たいんだ」
伊作は雛鳥のように可愛らしく首を傾げたりして、訳の分からない人、と呟いている。
「顔だなんて、言いつけられればなんだってお見せしますよ。フェラチオだってオナニーショーだって良い。なんだって、今更。雑渡さん、あなた分からない人ですね。嗚呼、本当、今更!」
伊作は忘れたりしないのだ。
学園で友に囲まれて、先の見えない将来に夢を抱いたり、不安になったり、そんな若い時間を雑渡は横からかっさらってしまった。
雑渡は伊作を側におきたいと、色んな手段で伊作を口説いた。好きだ好きだと喚いて、欲しい欲しいと駄々をこねて、どうしても自分のものにならなければ伊作の近しい人間を人質にとったりして、脅して宥めて、雑渡は伊作を手に入れた。
ところが雑渡は伊作を側に置いてみれば、ただ顔をみて幸せそうにするのみである。馬鹿馬鹿しい。伊作は思った。
「あなたそんな下らないことの為に僕をつれてきたんですか。」
帰して下さい!
伊作は怒鳴ったけれど雑渡は伊作のどんな我侭を聞けてもそれだけはうんと言わないのである。
「伊作君、私は君が好きなんだよ」
「馬鹿馬鹿しい。」
伊作は唾を吐いた。
「あなた僕を力付くで連れてきたんですから、好きになさればいいのに。かえって迷惑だ。僕はね、あなたを愛したりはしませんよ。恋人になぞなれはしませんから、諦めて慰み者にするか逃がすかしてくださればいいのに。そういうつもりなんでしょう。今更此方の意思を尊重するような振りをしたって駄目ですよ。ちゃんと分かっているんですよ。雑渡さんあなた酷い人だもの!」
「嗚呼、五月蝿い」
雑渡はぐい、と伊作の着物の袷を乱暴に引き付かんで、そのまま引き千切ってしまいたそうな目をしていたが結局悲しい顔をして好きだよと繰り返すぐらいのことしかしないのだった。
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