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口を丸くぽかん、と開けて伊作は雑渡を見上げている。雑渡の全身ぐるぐる巻きの包帯をいつものように剥がしたら、伊作が思っていたのよりずっと綺麗な身体が出てきたのだ。暫く見ないうちに雑渡の焼けたみたいな皮膚は随分治ってきていた。伊作はぽかん、と猫目を丸くして口を開きっぱなしにして食い入るように雑渡の身体を見ている。
なんでですか。
伊作が呟いた。
「元々治る傷だったんだよ。伊作君がまめに具合を診てくれるものだから最近は特に治りが早かった」
雑渡は顔にうっすら皮膚が引き攣れたみたいな白やピンクの箇所を残しながらも、つるんと綺麗な顔をしている。片目は抉れてしまってもうないけれど、ちょっと前までのケロイド面よりずっと人間らしい顔だった。膿みの腐った匂いなんかももちろんしない。
「嘘です」
伊作はまだ口をだらしなくあけて信じられないといった顔で雑渡を見ていて、とうとう両手で雑渡の顔を挟んでべたべたと肌の表面を触れて確かめたりしている。右腕左腕、胸も腹も手にとって確かめた。完全に綺麗ではないけど傷は明らかに薄くなっている。
伊作は失望したような顔をして、俯いたのち、ばっと顔を上げた。
「嘘です。嘘、嘘!雑渡さん意地悪して怪我を隠していらっしゃるんですね。」
「嘘じゃないよ。」
伊作はぶんぶんと頭を振って、そうするとやわらかな淡い色の髪の毛が左右に愛らしく振れた。
伊作は眉をきゅうっと寄せて拗ねたように唇を尖らせている。細い指で雑渡の顔を挟む。
「いいえ、隠していらっしゃるんです。僕、みつけますからね。」
「こらこら、やめなさい」
伊作は聞こえない振りで雑渡の皮膚を手で探る。まるでそこに何か埋まっているとばかりにすべすべと綺麗になってしまった雑渡の顔に爪を立ててかりかり引っ掻く。生まれたばかりの皮膚が削れて、血が出た。
「ほら、あった!」
伊作はきゃっ、と幼子が喜ぶみたいな声を出した。伊作は雑渡の首の下やら胸やら次々爪を立てていて、綺麗に塞がった雑渡の皮膚は傷の跡にそってぴりっとまた破れてしまう。伊作が何ヶ月も丁寧に薬を塗って包帯を巻いて塞いだ傷だ。雑渡はちょっと痛そうに眉を顰めたけれど、得意気な伊作に好きなようにさせている。
「意地悪ですね、雑渡さん。こんなに怪我隠してたくせに。ちゃんと僕に診せてくれなきゃ嫌です。」
手当てしますからね。またいらしてくださいね。
可愛らしく抱きついて、鉄の匂いのする雑渡の胸に伊作は鼻先を埋めるので雑渡はその頭を撫でてやった。
雑渡の率いる忍び組の人間の間では、組頭は生涯治らない傷を負っているともっぱらの噂である。
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