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雑渡さん僕はね、彼の手が好きだったんですよ。留三郎の手が。
留三郎はね、格好良いんですよ。顔は綺麗だし、体術も出きるし、優しいし、好きになるところはいっぱいあったけれどそういうのを全部さしおいて、僕は彼の手が好きだった。留三郎の手は優しいんです。
留三郎は用具委員長でね、学園の備品なんか管理するのが仕事だったけれど、そういうものを扱うときの留三郎の手つきは優しかった。
物を直すときの彼の手が僕は特に大好きで、壊れた手桶とか薬箱とか修理してもらいながら良く横に張り付いて見とれていた。
だからね、最初、僕のところに切り取られた腕が送られてきた時は、とっさに留三郎の腕だと思った。
よく見れば全然爪先の形も指の長さも違うことは分かったんですけど。
だけど、あなたの狙い通り、僕は怖くなりましたよ。
僕は誰の首を人質に取られてもあなたの元で忍びをやるつもりは全くなかったのに、結局あなたについていくことになってしまった。
あなたが切り落としたのが首なら良かった。
そうしたら僕はなにも恐れたりしなかった。僕は留三郎の腕が好きなんです。あれ程、僕の大事なものは無い。
ねえ、ずっと秘密だったのにあなたはどこで僕の秘密を知ったのですか。
伊作の長い告白を雑渡は黙って聞き終えた。雑渡は伊作の語る留三郎という少年について特に知っていることは無かった。雑渡は正直に白状する。
「腕を送ったのには特に意味はないんだよ。誰か親しい人を思い出すだろうと、そういう脅しだった」
送ったのが首でなくて良かった。雑渡は薄く笑って伊作の肩を抱き寄せた。
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