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所謂媚薬の類を用いるのは初めてだった。諸泉は単純に自分が懸想する男の乱れた様を見たいと思って雑渡に差し出す水に異物を入れたのである。ところが薬は諸泉の思うのと違う働きをしたらしい。
ごとん、と雑渡は湯飲みを取り落とすと途端激しく嘔吐した。背を丸めて蹲る身体が震えていて、息も荒い。苦しそうに額に汗を浮かべているから、これはまずいと思って諸泉は湯飲みを拾いなおして水差しから新しく水を汲んで差し出したのだが、雑渡はこれを目の色を変えて叩き落した。がちゃん、と破損する湯飲み。諸泉の手の甲には雑渡の引っ掻き傷が付いた。
「な、にを、何を、飲ませた…」
雑渡の声が擦れて震えているのに諸泉はひそかに欲情しながら、思いがけず害をもたらした己の業に言葉を言い淀んだ。
げえ、とまた嘔吐いた雑渡に疑わしい様な目を一瞬向けられたのが心外で諸泉は急いで取り繕う。
「…催淫剤、…です!ただの。」
毒を盛ったつもりはないのだと諸泉が首を振れば雑渡はこめかみを押さえて溜息を吐いた。
「…毒、だよ、…私にとっては。」
雑渡は苦しいのか着物の袷をぐい、と開いて喘いでいる。
胸元をぐるぐると巻いている包帯を掻き毟ると解れた布の隙間から、焼け爛れたグロい皮膚が覗く。それが昔受けたらしい拷問の跡と、諸泉はなんとなく知っている。
この身体、雑渡が絶え絶えの声で言った。
「…自白剤だの催淫剤だの、もう…この身が耐え、ら、れない…」
あまつさえ身体の隅々まで焼かれ傷を負わせられているこの男が拷問に掛けられたのは身体の外だけの話でないらしい。
その様を想像して、哀れと思うよりずっと諸泉は興奮してごくりと喉を鳴らした。
微量の毒素でも効き目が強すぎるようで薬が全身に回りきったらしい雑渡はもう言葉を失って床に倒れてのたうっている。熱く短い息を吐いている開きっぱなしの口からは唾液が泡になって端に垂れているのがいやらしい。
諸泉は取り憑かれた様な呆然とした目で雑渡の背を眺めていたが、やがてがたがたと震えている雑渡の身体に手を伸ばした。
すると鋭い拒絶の声が飛ぶ。
「触るな!」
思わず手を止めた諸泉の指先の少し先で、雑渡の身体が触れてもいないのにびくり、びくり、と間隔を空けて痙攣している。
諸泉は浅ましい目で雑渡を上から下まで眺めて、それから雑渡が勃起していることに気がついた。利き方は異常でも本来の効能はちゃんと発揮されているらしい。布越しに内股を擦ったら、返ってきたのは悲鳴だった。
「や、めろ、やめろっ…!」
余裕の無い叫び声を上げる雑渡の姿が世にも珍しかったので見蕩れた諸泉は、錯乱気味の雑渡の拳を避けられなかった。
ごっ、と鈍い音がして鼻の骨辺りに衝撃が走る。手で押さえたら酷く血が垂れてきていた。
雑渡は床をずりずると後退して諸泉を避けるようにしている。
「…すいません、もう駄目です。勃ちました。」
予想だにしない危害をくわえてしまったことに項垂れ気味だった筈の諸泉は、今や獣の目をして雑渡を追っている。散々身悶えて着崩れた雑渡の黒い装束の端を膝で踏みつけて動きを止める。
片目を動かして此方を向く雑渡の目は正確に諸泉の顔を捉えることはなくて黒目が何もない空をあちらこちらと見渡してせわしない。幻覚に責められてでもいるかのようだ。
やめてくれ、
雑渡の哀願を聞くのはまさしくこれが初めてだ。そしてこそ先一生涯他に聞くこともないのだろう。諸泉は背筋を走り抜ける快感に身震いした。
「…何か、混乱していらっしゃるようですけど。」
酷い乱暴を働きたい衝動と愛しく慕っている男を優しく宥めようという思いで揺らいで、諸泉はくらくらしながら口を開く。
「私はイかせもしないのに嬲るとか、秘密と引き換えに楽にするだとか、そんなけちなことをするわけではないんですよ。」
だから、私にあなたを楽にさせて下さい。
諸泉にとってはギリギリの冷静さで持ってして、そういう懇願がされた。やや正気を取り戻しかけた雑渡の目がぴた、と諸泉を捉えた。ひび割れた唇が開く。
「お前、は…いつも自分の欲望ばかり、だね」
ギラギラした欲望に当てられて雑渡は三度目の吐き気に襲われたが出てきたのはもう腹と喉を焼く透明な酸だけだった。
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