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「ずっとアンタの血は冷たいのだと思っていました。」
じわじわ、ポタポタ、雑渡の手のひらから血が零れている。
壁に凭れて座っている雑渡の左の手のひらはちょっと細めの棒手裏剣で、虫の標本かなにかの様に壁に差し止められている。手首から肘に向かって垂れてくる血液を諸泉はびちゃびちゃと嬉しそうに舐めて微笑んだ。
「温かいです。」
「…私は寒いよ。」
あんまり血を流したので雑渡の身体は冷えているのである。寒い寒い、と雑渡は空いている右の手で諸泉の背に手を回して抱き寄せた。手が空いていても自分で手裏剣を抜いてしまわないのは、諸泉がこういうセックスの趣向を好むのに任意で付き合っているからである。
諸泉は目をキラキラさせて興奮しているから抱き込むと温かかった。くらり、と眩暈が雑渡を襲う。身体が何処かに落ちていくような錯覚がして雑渡の手が諸泉の腕にしがみ付いた。長い指がキリキリ爪を立てる様に諸泉は愛しげに目を細めたりする。
「割りとギリギリですよね」
諸泉は磔の体でいる雑渡の身体を撫でたり舐めたり噛み付いたりしながちらちら雑渡の顔色を伺っている。
眠りに入る寸前のような深い息を吐き始めている雑渡の様子ではそろそろ危険な感じだった。一度手当てをして、続きはそれからだなぁ、と諸泉はぼんやり思う。
そう考えながら惰性で諸泉の指は動いていて、雑渡の身体を覆っている包帯の上から乳首を摘んだり、脇から腰を擽ったり、もっと下降して性器を直接擦ったり、爪を立てて嬲ったりしている。大体拷問みたいな愛撫なのに雑渡は意外に色っぽく喘いでいる。
「っ、あ…」
「…このまま最後までやったら死んじゃいますか?」
こくん、と雑渡が頷いたので諸泉は残念そうに指を止めて、ただ雑渡の身体を抱き返した。
「温かいです。」
「……だから、…私は寒いってば、」
もうちょっとこうして居たいです、と其処だけ聞けば甘い台詞を吐いて諸泉は雑渡の血塗れの腕に頬擦りした。
血も涙も無いと巷でもっぱら噂の忍び組頭の血は、諸泉の予想に反して暖かだった。大変意外である。それから、はた迷惑な方向に雑渡を愛している諸泉の背を、雑渡はあやすように抱き返している。
やはり意外なことに雑渡は温かいのである。
ねぇ、
「死んでしまうよ」
酷く眠たそうに雑渡は諸泉の頭を緩く撫ぜた。
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