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あるところに小さな国がありまして、その国の王様は意地悪ではなかったのですが、人の気持ちの良く分からない人間だったので時折途方も無い我侭を言っては暴君などと呼ばれておりました。
王様は楽しいことが大好きだったので精一杯に遊びました。お菓子もご馳走も大好きだったし、騒がしいことも大好きだったのでお城はいつも愉快な音楽が流れ食べ物に溢れ家臣たちはそれらを用意するため毎日王様の為にひたすら走り回っていました。疲れきっておりました。
「あなたは間違っています。人の気持ちを知らねばなりません。」
家臣の中に大層賢く美しい若者が居りまして、王様にそう忠告しました。自分ばかり楽しくてはいけません。人の幸せを考えねばいけません。王様はこの若者と遊ぶのが大好きで若者もきっとそうだと思っていたので、その家臣が言っていることが王様には良く分かりませんでした。訳が分からないことを言う家臣を王様は殴りました。腹が立ったので殴りました。王様は愉快なことが好きだったのでそんなつまらないことを言う家臣は嫌いでした。
若者は綺麗な顔をぼこぼこに腫れあがらせて泣きました。そしてお城を出て行きました。それを見ていた他の家臣たちも若者の後を追って出て行きました。お城は急に静かになりました。それから何日も何日も何日たっても家臣たちはひとりも帰ってきませんでした。おそらく一生帰ってこないであろうその理由は王様には分かりません。
「退屈だ」
王様はひとり呟いて誰も居ないお城をうろうろし始めました。お城の中に人が居ないか王様は探し始めました。お城は広くその全てを見ていくのには一晩では足りませんでした。
王様が最後に一度も使ったことの無い部屋に入ったときはもう何日の夜が去ったのか分かりませんでした。一度も使ったことの無い部屋は本がいっぱい詰った勉強のための部屋でした。
部屋にはたったひとりお城に残っていた青年が居ました。それは口のきけない学者でした。学者は王様に勉強を教えるために王様が一度も入ったことの無い部屋でずうっと王様を待っていました。
王様は喜びました。空っぽのお城でやっと遊んでくれる人をみつけました。ところが学者は歌も歌わないし料理も作れないしおしゃべりもしてくれないのです。
王様は絶望して学者を殴りました。学者は泣きもせず笑いもせずただ黙って殴られておりました。王様が殴るのをやめると黙って本を読み始めました。王様は学者に一緒に遊ぶよう命じましたが学者は黙って本を読んでおりました。
王様はこの学者になんとか構ってほしくて頭を悩ませました。
どうしたら一緒に遊んでくれるだろうか。楽しい気分になったら遊ぶだろうか。なにをしたら楽しくなるだろうか。喜ぶだろうか。
王様は生まれて初めて他の人の気持ちを考えました。けれど学者は笑いもしなければ泣きもせず、なにも言ってくれないのでその気持ちを考えることはとても難しいことでした。王様は出て行った家臣たちのことを思い出しました。家臣たちは殴れば泣いたので殴ってはいけなかったんだなと思いました。嫌な時は嫌だという顔をしていたんだなと思い出しました。それを無視するともっと嫌そうだったなと思い出しました。
すると学者は初めて振り向いて笑いました。
「分かったか」
と、長次は言った。
長次の前には小平太が胡坐を書いて長次の話を聞いている。その少し前まで長次の膝元には小平太率いる体育委員会の一年生が転がり込んできていて「酷いんですよ七松先輩酷いんですよ滝夜叉丸先輩怒って出て行っちゃいましたよ」と小平太の暴君ぶりを訴えていた。そこで長次はこんな物語で小平太を説教したのである。
「ああ良く分かったぞ長次」
小平太は真面目な顔で頷いた。
「その学者とやらは王様のことが大好きだな」
そう言い捨てると小平太はぱっと立ち上がり弾丸のように部屋を飛び出していった。妙に晴れやかな笑顔のその男が和解に向かったのなら良いのだが。
長次は黙って本を読みはじめた。
王道お題5 王族と民間人
王族って時点で私には無茶振りでした…。長こへもこへ滝も好きです…。
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