忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「I'm Home」/(雑伊) コー伊前提で雑伊 ※ホラー風味。


▼「I’m Home」



  うわああん、と子供が駄々を捏ねる様に伊作が泣いている。
雑渡は唖然とした様子でそんな伊作を眺めている。色んなものが雑多に置かれている伊作の部屋は荒れていて、重たい薬棚が動かされていて衝立が倒れていて葛篭がひっくりかえって中身が散乱していて、それは全部子供のように愚図っている伊作のしたことなのである。
伊作は探しものがみつからなくて泣いている。

「どうしたんだい、そんなに泣いて」

雑渡は荒れた部屋の隅っこから伊作のしゃくりあげる背中を眺めて言った。伊作はようやくそこで雑渡に気づいたように振り返って鼻声で雑渡に訴える。

「こ、コーちゃん、コーちゃんが、いなくなっちゃいました」

白い頬に涙が伝って目元が赤い。もう昼からずっと泣き通しの伊作は消耗していて何処となくぐったりしている。疲れた細い息を吐いて、ひっくとまたしゃくり上げる。雑渡はぱちくりと目を瞬いた。

「ああ、あの骸骨人形か」

伊作がコーちゃんなんて名前をつけて大事にしている骨格標本を雑渡は思い浮かべて頷いた。その骨格標本なら知っている。伊作が大事に大事に、恋人でも扱うみたいにしているから、愛しい子のこの大事なものならどんなに素晴らしかろうと思って雑渡が盗んでいったものだ。
ところが雑渡は全身包帯をぐるぐると巻いた風体で、そんな男が全身綺麗にそろった骸骨なんぞしょってよっこらよっこら歩いていたのではあんまり目立ちすぎるのだ。要するに、雑渡は伊作から盗んだ愛しのコーちゃんを、途中の山で捨ててきた。

「コーちゃん、コーちゃん、…ひっく、コーちゃん…」

伊作はどうしようもなく泣いている。雑渡は伊作に嫌われたくないので知らん顔をして弱っている伊作につけ込もうとする。肩を抱く。

「まぁまぁ、そんなに悲しまないで。骨が欲しいのなら私が何処かで見繕ってこよう。男の骨がいいのかな、女の骨がいいのかな。子供の骨だっていいね。なんだって用意してあげよう。泣くのはおやめ。」

伊作はずっ、と鼻を啜って振り向いた。しばらく雑渡の顔を見上げているとぐしゃあ、と顔を歪ませて雑渡の胸に飛び込む。めそめそと泣く。
雑渡は包帯の下でにっこり笑って伊作の背中を叩いてやった。

「うう、コーちゃん、コーちゃんが良かったんです。他の子なんていりません。コーちゃんを愛してたんです。」
「…大事だったんだねぇ」

愛しているとは言ってくれる。雑渡は嫉妬をする性質なのであの骨は捨ててきてしまって良かったのだと確信する。
ぽんぽんと背中を叩いてあやされている伊作はだんだん落ち着いてきて声を上げずに涙だけ零している。雑渡はここからどう宥め透かしたら伊作を抱けるかで頭がいっぱいだ。邪まに伊作の腰を抱く。

「雑渡さん雑渡さん、コーちゃんは何処に行ってしまったんでしょうか」
「コーちゃんは足で立って遠くへ行ってしまったんだよ」

幼い子を騙す要領で雑渡は言う。伊作は赤い目で雑渡を見上げて本当、と尋ねた。

「じゃあ、帰ってきますね?きっと。…自分で歩いていったのだから。」
「そうだね、きっと帰ってくるよ」

伊作はようやく泣きやんで、安心した表情でぺたりと雑渡の胸に張り付いた。良かった良かった、しめしめ、と雑渡は大人しくなった伊作の額に接吻して腫れた瞼に接吻して可愛い唇に接吻する。
コーちゃんが帰ってくるまで慰めてあげよう。

ひとつ頷いた伊作は接吻にとろんとした顔で応える。思う壺だと雑渡は喜んで伊作の身体をゆっくりと床に寝かせる。着物の袷から手を差し入れて肌を撫でる。目を細めてうっとりする伊作はところが不意に気が付いて言うのである。

「嗚呼、なんだもう帰ってきました」
「は?」


からんころん。


乾いた音がする、と言った伊作の言葉に雑渡はぎくりとした。





I'm Home(ただいま!)
PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Trackback

この記事にトラックバックする:

Copyright © No Mercy for mobile : All rights reserved

「No Mercy for mobile」に掲載されている文章・画像・その他すべての無断転載・無断掲載を禁止します。

TemplateDesign by KARMA7
忍者ブログ [PR]