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「笑ふされこうべ」/(コー伊) 雑渡さんの臭い台詞を鼻で笑うコーちゃん。こーな様よりリク 雑伊要素あり


▼笑ふされこうべ


 月の明るい夜のことだった。柔らかい癖っ毛を下ろした伊作の後姿を、訪ねてきて早々雑渡は抱き寄せたのである。目をぱちくりさせる伊作はこのくせ者がいつの間にやって来たものか首を傾げながら、腰に回された手をぺちりと叩く。

「いらっしゃるにしても、手を出すにしても、急な方ですね」
「…これで情熱的なんだよ私は」

 伊作が咎めるような呆れる様な台詞を吐くのも雑渡は楽しくて仕方ないと見えて顔中に巻かれた包帯の隙間から覗く片目を細めて笑う。

「それにほら、珍しく部屋の方にひとりでいるから」

 伊作の籍を置く忍術学園では大概ふたりひとつで部屋を与えられるのが決まりらしくて、この部屋もいつもは相部屋している少年が招かれざる客の来訪を怖い顔して睨んでいるのである。ところが雑渡がちらりと見渡したところ今晩の部屋には伊作以外に人影が無いらしい。
 不在の理由は知れないが、折角だから、と大人の男のやましさで雑渡は伊作を後ろから抱きこんで腰の辺りなんか撫でている。けれど伊作はちょっと眉を寄せて、雑渡の腕の中で身じろぎした。

「いやですね、この子が見てますよ。」
「ん?」

伊作の言葉に雑渡が首を傾けたところ、伊作は膝の上を指差した。そこには白いされこうべがちょんと乗っている。
 伊作の部屋には黒い忍び装束なんか着せられた骨格標本がきちんと組み立てられて飾られていたりするのを雑渡は幾度か見たことがあったのでその頭だろうと察しがついた。
次いで良く見れば首から下の部分も伊作の膝前に広がって並べられている。伊作はその白い骨をひとつひとつ拾って、布で磨いているのである。

「たまにバラして拭いてあげないとカビが生えたり埃が積もったりするんですよ。」
「無粋だねぇ」

雑渡は甘い雰囲気に持ち込み損ねて恨めしげに骨を見た。伊作は障子襖を開け放ち月明かりで標本を磨いている。明かりを灯さないのは灯台の油をケチっているのだ。その晩の月は丸くて明るかったのだけれど、それでも手元は薄暗くて伊作はぱちぱち瞬きした。
 雑渡はちらりと空を仰ぐ。雲の無い秋の夜空には星もちかちか輝いているのだけど、あんなに高いところにあったのでは明かりの足しにもなりはしない。

「あの辺の星をひとつ土産にでも持ってくれば良かったね。」

 ふと思いついて雑渡はそんなことを言った。すると雑渡の胸に背を預けて自分の仕事に耽っていた伊作がようやくちょっと振り向くので雑渡は幾分気を良くする。

「だって、ほら。そしたら部屋も明るくなっただろうし、私は君の顔が良く見えたのにね。」
「……ふふっ。」

雑渡は半ば本気でそう残念がって言ったのだ。ところが聞いた伊作はくすくす肩を竦めて笑いはじめてしまう。それから猫でも撫でるみたいに膝の上の頭蓋骨を手のひらで優しく擦った。

「あは、可笑しい。」
「そう笑うことかい」

伊作がそう言うので雑渡は憮然としてしまう。真面目に言ったのだけれど、と口惜しそうに呟いたのを聞いて伊作は慌てて首を振った。口元はまだ柔らかく微笑んでいる。

「嗚呼いいえ、違うんですよ。雑渡さん。この子が、」

伊作は膝の上のされこうべを持ち上げて見せた。かたんと上下の顎が鳴る。

「慣れぬことをおっしゃるから歯が浮く、と言うものですから…ふふ、面白いなぁと。」
「…。」

 それは本当に膝に抱いたされこうべの意見なのか雑渡は疑ってしまう。黙ってしまった雑渡を他所に伊作は持ち上げたされこうべに頬擦りして可愛いなぁ、なんて溜息を吐く。雑渡は釈然としない。

「…可愛くないよ。捨てておしまいよそんな骨。」


悔し紛れの台詞を口にしたらなんとなく、ふふん、と憎たらしくされこうべの嘲笑う幻聴まで聞こえた気がした。



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