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「指切りしましょ」/(食満+伊作+コーちゃん)(内容指定なし) ka様よりリク


▼指切りしましょ


 留三郎の前に骨がある。
善法寺伊作の私物の骨格標本、という良く分からない定義を持つ骨である。私物も何も、何処で手に入れたのか、何処の誰の骨なのか、骨というのは果たして他の誰かの私物と成り得るものなのか、それら全てをすっとばして善法寺伊作の私物、と仲間内が呼ぶ骨がある。

 目の前の骨の出自について、六年間伊作と同じ部屋で暮らしている留三郎も良く知らない。知っている事といえば伊作はこの骨にコーちゃんと名前を与えて服を着せてそれはそれは可愛がっていることくらいである。友のように兄弟のように恋人のように慈しんでいること位である。若しかしたら六年間伊作と同じ部屋に暮らし机を並べて切磋琢磨した留三郎よりもこの骨は大切にされているかもしれなかった。

 そういう訳で留三郎は骨の前で途方に暮れている。
骨の左手には小指が付いていない。先刻ちょっと蹴躓いた拍子にバラかしてしまった骨格標本を、慌てて組み立てなおしてみたはいいものの出来上がったものを眺めてみれば小指の先がどうしてもみつからないのである。留三郎がばらばらの骨を正しく組み立てようと四苦八苦しているうちに鼠でも咥えて持っていったかもしれない。
 
 留三郎はこの骨格標本が伊作の何なのかさっぱり知らないが、とにかくひたすら大事にしていることを知っているし、また伊作が案外えげつない性根の持ち主であることもこれまた良く知っているのだ。そういう訳で留三郎は己の過失を誤魔化すことにした。
 素早く手近な山に行って最近合戦場になってたあたりをうろついて、鳥や獣が食い荒らしたらしい適当な人の骸をなんとか見つけた。その小指を切り取って布に包んで懐に包んで持って帰り、残った肉を洗い落として綺麗な骨にして、穴を開けて糸を通してコーちゃんの左手に結びつけた。
出来上がった骨格標本の全身を、そこでしげしげ眺めてみたのだがなかなか出来は良い様である。その日の午後は委員会があると言っていた伊作はなにか時間を取られているようで辺りが暗くなりはじめた時分になっても戻ってこない。
やれやれ、良かった。
ほっと息を吐いて留三郎は衝立で仕切られた部屋の自分の領域に帰っていったのである。






「留三郎、ちょっとこっちに座ってくれる?」


程なく帰ってきた伊作に手招かれた衝立の向こう側で、びしっと床を指差されて留三郎は正座している。留三郎の渾身の隠蔽工作は、部屋に戻ってひと目骨格標本を見るなり悲鳴を上げた伊作にあっさり見抜かれているらしい。内心冷や汗ものの留三郎は神妙に小さくなって座っている。


「何の話か分かるよね」
「……いや、」

さっぱり。と一応忍びのたまごの留三郎は首を傾げてみた。伊作は大層ご立腹な様で床をバンバンと叩いて威嚇する。

「嘘吐くな!」
「うっ」

こんな不恰好な適当な骨がコーちゃんの指なものか。
とかなんとか言って伊作は留三郎の拾ってきた小指の先を放り投げる。かんからん、と音を立てて小指は襖を突き破って廊下を転がっていった。通りがかった生徒が見たらさぞや驚くだろう。
伊作は怖い顔をして留三郎を見ていたかと思うとわっと悲劇的に両手で顔を覆って地に伏した。

「見下げ果てたよ、留三郎…君が留守中に他人のものに手を出すようなそんな男だったとは!」
「…は!?いやお前その言い方はどうかと…」

ええい、黙れ間男め!
伊作は芝居がかった台詞を吐くので留三郎はぽかんと口を開けたっきり黙ってしまう。どうも、なにか、認識の相違があるようだ。

「知らなかったよ、ちょっと目を離した隙にこんな…コーちゃんが君に心中立てを誓う程思いを寄せるまでになっているなんて!」
「いやいやいや、ちょっと待ておかしい!確かに小指が無いのは俺の所為だが…」


留三郎には伊作がどんなつもりで骨格標本を私物として扱っているのか正確に知らないのだが、とにかく伊作は骨格標本のコーちゃんを、親友の様に、恋人の様に、娘の様に大事に大事にしているらしかった。
遊女宜しく小指を無くした愛する骨に伊作は大変な嘆きようである。留三郎の言葉など聞く余地も無い。

「まさか、君この期に及んで白を切るつもりじゃないよね…この人でなし!色男!うちの子を弄ぶつもりか!責任取れ!」
「……。」


惜しむらくは骨格標本のコーちゃんは伊作に真偽を語って聞かせる舌を持っていないことである。

 そういう訳で留三郎の枕元には善法寺伊作の私物の骨格標本改め、食満留三郎の私物となった骨格標本が真っ直ぐ立って此方を見下ろしている。
おまけに、恨めしや、留三郎。と衝立の向こうから伊作の啜り泣きが聞こえてくるのである。
明日はなんとしてもこの標本の小指を探して戻してやらねばなるまい。安眠などとても出来そうにない留三郎は布団の中でそう決意した。

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