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「プロローグ」/(鉢雷) 現パロ鉢雷双子シリーズ


▼プロローグ

※現パロ双子鉢雷、の一番初めの話として読んでください。




 ようやくふたりきりだね、
と両親の葬式を終えた直後に三郎が嬉しそうに言ったので僕は唖然としてしまった。まだ喪服を着たままソファの端で項垂れてる僕の腰を三郎は抱き寄せる。吃驚して、脇腹を擦られるのを咎めることも出来なかった。

「本気で言ってる?」

 僕が訊ねると三郎は悪びれもせず頷いた。他に身内も居ないで僕らがこれからふたりきりで暮らしていかなきゃいけないことが三郎は嬉しいのだそうだ。
ねぇ、好きだよ。と変に潜めた声で雰囲気など作って顔を寄せてくるから、その額を小突いて退けさせた。三郎の好き、は家族に向けられるにはちょっと異常だ。ちゃんとかわさないと、平気で唇を奪われてしまう。

「やめて、」
「なんで?」

 僕は三郎の頭を抑えて近づけないようにしているのだけど三郎は懲りなくてぐりぐりと額を僕の手のひらに押し付ける。何か大きな動物かなにかのようだ。到って常識的で一般的な僕の言葉が欠片も伝わらない、ということも含めてのことだった。
 今はちょっと悲しい気持ちだからお前には構えないよ、と僕が噛み砕いて教えてやると三郎が神妙な顔で頭を擦り付けるのをやめた。代わりにばっと腕を広げて僕の背中に両腕を回して抱きこんでぽんぽん、と手のひらで背を叩く。なんとなく伝わったのかな、と思っていたら三郎はわっと泣き崩れるように声を上げた。


「雷蔵、可哀想!」

と、言われたって僕とお前の身の上は同じなのだけれど。呆れてしまう。
三郎は僕の悲しいと言った台詞に応えているのであってきっと何も理解していないのだ。人としての情だとか、モラルやそれを破ることに対する危機意識だとか、そういうものが三郎には欠けている。これは放っておいたらひとりではまっとうに生きていかないだろう。三郎の言う、ようやくふたりきり、の状況になって初めて僕はそんなことに思い至った。
 可哀想可哀想と僕を撫でる三郎。僕は三郎と全く同じとも逆とも言えることを考えていた。
嗚呼、三郎。お前可哀想だね。


「ねぇ、慰めてもいい?」

やがて三郎は僕の顔を見て言う。

「うん、そうして」

これは三郎がぱっと喜色満面に笑った事実からして言えることだけれど、今、本当に可哀想がって慰めを行っているのは僕の方だった。唇が接触する。 

 これが僕の一番初めの妥協になるのだろう。
僕は三郎をひとりには出来ないから、これからもこんな風にひとつずつ済し崩されてふたりで暮らしていくんじゃないだろうか。諦めみたいな覚悟を僕は思った。

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