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「まずはほんの一口」/(伏雑) (内容指定なし)伊作がちょっと出張りました


▼まずはほんの一口


 僕、物分りはいいんですよ。
伏木蔵はそう言って雑渡の手首から指にくるくる包帯を巻いている。ほんのちょっと前まで伏木蔵は雑渡の全身を覆う包帯を自分が換えるのだと言って喚き続けていたので、雑渡は伏木蔵の言葉を鼻先で笑った。この糞餓鬼め、位のことは思っているかもしれない。
 けれど伏木蔵は今日は保護者同伴だったので雑渡は黙って腕を貸してやっている。


「申し訳ないですけど、練習させてやってくださいね。折角やる気をだしているみたいなんで」

保護者且つ保健委員長の善法寺伊作は目を細めてにこにこと、くせ者に包帯を巻く後輩の後姿を眺めている。
正面から向かいあっている雑渡には、伏木蔵がにやにや不気味な笑顔を浮かべながら雑渡の手を小さな指で撫で回しているのが見えている。別に実害はないけれど大変気味が悪いことこの上ない。

「多分ね、勉強熱心で言ってるのではないんじゃないかと思うんだけど」
「はぁ、そうですか?」

この子私のこと狙ってるんじゃない、なんて雑渡が言うと一瞬きょとんとした伊作はあははと朗らかに笑う。

「そうか。伏木蔵は雑渡さんが好きなんだねぇ」
「ええ、好きなんです。」

血の気のない顔でにっこりと笑い返した伏木蔵は、それからふっと寂しげな顔をしてみせて、でもね、と続けた。
碌なことを言わないなという予感が雑渡にはあった。

「でも僕はほんの子供ですし、今こなもんさんをどうこうすることも出来ないんです。嗚呼、僕が大人になるまでに雑渡さんが誰かに腕を捥がれたり足を落とされたり目玉を刳り貫かれたり犯されたりしたらどうしよう。でもしょうがないですよね。僕は諦めます。物分りはいいんです。」

こんな僕、健気でしょう。
と伏木蔵は幼い顔に深い影を落としてしっとりと溜息を零すのである。雑渡が呆然としていると伊作が感動したようにその伏木蔵の小さな頭を抱きしめたので雑渡はますます言葉を失った。

「うんうん、切ない。切ないねぇ、伏木蔵!」
「伊作君、ちょっと待って。なんかおかしい。ねぇ。」

これは保護者から厳重注意が必要だなと雑渡は思ってしまう。伊作は恋だとかなんだとか浮ついた話題が好きだったらしく僅か十の子供と一緒にきゃっきゃっと盛り上がっている。
 雑渡は取り残されるようにふたりのはしゃぐ姿を眺めていた。すると伏木蔵が不意にくるん、と振り向くので雑渡は反射的に肩を逃がしてしまう。
伏木蔵は巻き掛けだった包帯を手繰って、雑渡の身体を引き戻す。ひし、と手を握る。

「…但しね、もし僕が大人になってもこなもんさんが残ってたらそのときは僕が残さず頂きますからね。」
「人を残飯みたいに言わないでくれないかい」

うふふ、と伏木蔵ははしゃいで雑渡の指を咥えたりする。
物分りの良い筈の子供はやっぱり食いっぱぐれたら嫌らしいと見えて少し伸びた雑渡の爪をぷちぷちと噛み千切って、ごくん、と飲み込んだ。
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