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05:口の端が切れた(食満伊)


05 口の端が切れた
 



  伊作は忍びには向いていないかもしれないが、心の優しいのが留三郎は好きだった。
自分も含め年々非情に育っていく学園の仲間たちの中で、留三郎がこさえたかすり傷一つを忍務そっちのけで慌てて手当てにやってくる伊作の手緩さは、なんというか救いだった。

 そこである日の課題忍務で平然と、人一人あやめる殺意を持ってくないを振り上げた伊作に留三郎は動揺したのである。相手は顔を見られては不味い様な敵の城の手の人間で、他の学友の誰がそいつを殺そうと言っても留三郎は止めはしなかったと思うのだが、刃物を振り上げたのが他ならぬ伊作であったので留三郎は慄いた。見たくないのだ。はずみ制止の声を叫んでしまう。

「やめろよ!」

思わずだったが案外大きな声が出た。乾いた空気にぴり、と唇が引き攣るのを感じる。伊作は振り向いた。振り向いて伊作が鬼のような形相をしていたら嫌だなと留三郎は思ったのだが、振り向いた伊作はあどけなくいつもの優しい顔をしている。それからあっ、と小さく零したかと思うとあっさりくないを投げ捨てて留三郎に駆け寄った。

「留三郎、大変。血が出てるじゃないか。」

 慣れた手つきでさっと準備よく白い木綿を一畳み、懐から取り出して伊作は留三郎の頬に手をやった。留三郎の口の端にはほんのちいさく乾いて裂けた唇の裂傷があるばかりである。その大袈裟ぶりはやはりいつもの伊作なので留三郎は複雑に眉根を寄せた。

「もうお前が分からねぇよ」

 さっきまで刃物を握っていた伊作の鉄さび臭い手を見遣って留三郎は困惑する。お前はもっと優しかった筈だとかなんとか非難がましいことを口にすれば伊作が緩く首を振る。

「僕はね、最初から留三郎に特別優しいんだよ」

だって好きだもの。
優しく唇を拭う白い木綿に赤い血が点々と眩しかった。


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