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04:叫ぶ  (文仙)


04 叫ぶ 
 



  断腸の声というのだろうか、こう如何にも悲痛な趣の悲鳴が部屋の中から聞こえたから、自主特訓帰りの文次郎は一瞬部屋の前で立ち尽くした。
学園の生徒に二人一組で与えられている部屋は文次郎ともう一人、立花仙蔵という男が寝起きしている。悲鳴はおそらく彼のものなのだが、それにしてもその男がこれまで何か声を荒げるのを文次郎は聞いたことがなかったし想像もつかないのだった。仙蔵と言うのはなんというか無機質な感じでそつのない人間なのだ。
 そういうわけで文次郎はなにかよほどの不穏な事件を覚悟して襖を開いたのである。

「なんだ文次郎。今日は帰りが早いな。」

 そういった文次郎の覚悟とは裏腹に、飄々として仙蔵は文次郎の帰りを迎えた。拍子抜けする文次郎はそれでも部屋の様子を注意深く見渡して、すぐにあるものに目をとめた。骨である。

「なんだそれは」

 文次郎が目で促した先にはひとそろいの骨がある。先の悲鳴を合わせれば身内の不幸を想像するものかもしれないが、黒い忍び装束を着こんで糸で組まれた骨のひとそろいには見覚えがあった。学園の保健委員長が私物だとか言って所持している骨格標本である。

「借りてきた」
「ほぉ、」

なんの為に、というのは聞かずに流した。仙蔵と言うのはなかなか酔狂な男なのである。ひとつひとつ構っていたらきりがない。それより文次郎には気になることがあった。

「さっきの声はなんだ。」

 六年同じ部屋に暮らして初めて聞く仙蔵の叫び声である。文次郎はそちらの由来が聞きたいと思い問いただした。
重ねて言うが仙蔵と言うのは、どうもいつも冷めていて、感情の窺えない男なのである。作り物のように綺麗に整った容姿のせいでことさらそういう風に見えるのかもしれない。
 仙蔵は、少し可笑しそうに唇の端をつり上げた。

「いやなに、少々悲しいことがあった」
「ほぉ?」

これは少し興味があったとみえて文次郎は先を促すよう仙蔵の顔を窺い見た。

「俺は、お前はそういう感情沙汰には疎いと思っていた。」

正直にそう告げると仙蔵も浅く頷いて、そうだろう。私もだと答える。自分でもついぞ何かに悲しんだり声を荒げる様が思いつけないのだという。そこでである。

「お前の葬式ごっこをしてみたよ。」

唖然とする文次郎に仙蔵は、ふ、と口の端に笑みを浮かべて借り物の骨を見遣った。

「問答無用に悲しかったぞ」

思わず泣き叫ぶほどだったとからから笑って仙蔵は骨を抱きあげた。

 さてこれは返しておいてくれ、と渡された骨格標本を担ぎながら文次郎は極めて複雑そうに眉をしかめて眺めた。



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