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黄昏時のお殿様/(黄昏甚兵衛と雑渡)※拷問注意


▼黄昏時のお殿様



 どこかの城の忍びがタソガレドキ城で捕まって、もう十日程になる。
どこかの城と曖昧なのは、男が如何なる拷問にも口を割らなかったからである。割らなかった、と過去形なのは男が度重なる拷問にとうとう気を違えてしまってもう如何にも口が利けなくなっていたからだった。

さてタソガレドキ城城主の黄昏甚兵衛はその口の堅い男の大した忠義心に感心して、独房なんかにのこのこ顔を見に来ていた。
 男は両腕を広げて棒の端と端に手を括り、膝を付かない様に天井から棒ごと吊られている。ふらふらと足がおぼつかないので揺らめいて案山子の様である。
気違いになってしまった男は唾液と血の混ざった泡を口から垂らして、吊るされたままびくりびくりと身体を痙攣させている。なんとも見るに耐えない様子であるが、通った鼻筋と形の良い大きな猫目はたとえ片方が抉れていても元々の顔の造形の良さが窺い知れるのだった。


「どうだ、なにか吐いたのか」

 甚兵衛の尋ねたところ、男は目玉を抉られても爪に針を刺されても腹を割いて塩を塗りこんでもちっとも何も言わなかったという。甚兵衛は感心した。黄昏甚兵衛は戦好きのいけ好かない男で人望などというものはついぞ持ち得ないからこういう献身的な忠誠を配下に持たれたことが無い。
なによりそんな目にあって未だ息をしているこのしぶとさが大変稀なことに思えたのである。

「だれかこいつに火を付けろ。煮えた油でも良い」

しばらく男を眺めたのち、黄昏甚兵衛はそう言った。
男は大層弱っていたし、正気を失って自分が何処からきたものか何者かすっかり分からなくなってしまっていたので、それはただの虐殺であるとその場の家臣は解釈した。
 ところが甚兵衛はそういうつもりではないらしい。

「息があったら池に落として火傷を冷やしてやれ。それから私のところへ持ってこい」


これには家臣も顔を見合わせた。
全く意図は掴めなかったが忠誠心なぞ無くても城勤めの者には城主の命令は絶対であるから程なく鍋に煮えたぎった油が用意された。油が頭から浴びせられて男の顔が焼けるのを甚兵衛は見届けて、男が掠れた小さな悲鳴を上げながらまだ生きているのを確認して満足気に頷いた。
あとから連れて来いよ、と念を押して浮き足立って独房を出て行った。


そういうわけで男は一度水に沈められて黄昏甚兵衛の前に引き出されたわけである。
男は朦朧とした意識で目を開けてきょろきょろと不思議そうにしている。甚兵衛はそれを、よしよし良く帰ったな、と言って迎えた。

「帰った…」

熱に焼けて痛んだ喉でしゃべり、男はおかしくなった頭を傾げた。周りを取り囲む家臣どもは不穏を感じて顔を見合わせた。何かとんでもないことを言い出すのが聡い者には既に分かっている。

「お前はここの忍びだったろう!」

は、は、は、と甚兵衛は笑って膝を叩いている。男は霞む頭を必死に動かしてみたのだがなんとなくそういう仕事をしていたような気がする、程度のことしか分からない。
穴が空くほどに甚兵衛の顔を見つめて、なんだか見覚えがあると判断を下した。まさか自分の顔を焼いた張本人で見覚えがあるとは思わない。
 はぁ、それで、切れ切れに男は尋ねた。

「私は、誰です」
「そうだな、何か適当でいいだろう」


ざっとこんなもん、なんてどうだ。








とかだったら面白くないですか?
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