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あれから十年/(小頭と尊奈門)↓のそれから十年後


▼あれから十年

※黄昏時のお殿様、続編


 タソガレドキ城城主の黄昏甚兵衛は暇を持て余した男である。酒を嗜んだり絵を嗜んだり南蛮文化にかぶれてみたりと年がら年中道楽を変えては次を探して暮らしている。
今のところは彫り物に凝っているらしくって、城の中に溢れた恐ろしく不細工な仏像を家臣どもはどうしたものか首を捻っていた。

「これ捨てたら駄目なんですか」

邪魔でしょう、と遜色無い台詞を素直に吐くのはこの城でまだ年若い諸泉尊奈門という忍びである。同じくタソガレドキ城忍び組の小頭はその言い草を聞いて笑いを噛み殺した。諸泉よりは幾らか忍びとして年月を重ねている小頭は思ったことは顔色にも口にも出さないと言うのが染みついているから諸泉の素直な物言いは痛快だった。

「捨てられないだろう。殿はご自分の作ったものを時折出してこさせてはご覧になるのがお好きなのだ。」

小頭と諸泉の手には箱ひとつずつ抱えられている。人数の多さからかなにかと雑用の命じられることの多い忍び組ではあるが、その面倒を命じられる筆頭の組頭の手が空いていないので代わりに小頭が、城主の道楽の後片付けを請け負わされている。諸泉はその途中で単に捕まったのだった。不満そうに箱を、物置部屋にしまう。

「仏様も怒りますよ。こんな不細工に彫られたんじゃ…うわぁ、悪趣味!」

箱を下して中の出来の悪い彫像を諸泉はあさっていたが、像の中に入り混じって男性器を模した張り型が混じっていたのには鼻白んだ顔をした。
良く見れば箱の中にはまだいくつか卑猥な造形物が混ざっていて、根元にいぼの様な突起が彫られているもの、側面が波状にうねっているもの、と形も様々だ。
小頭はそれに僅か眉を寄せたかと思うと、黙々と自分の抱えてきた分の箱を部屋の隅に置いて部屋を後にする。慌てて追いかけるように諸泉も部屋を出た。

「あれを漁るお前も悪趣味だぞ。そういうのは見て見ないふりをするもんだ。」
「小頭は、見慣れてますか。こういう…殿の悪趣味。」

諸泉に問われると、小頭はなにかと思いだすことがある様で隈の濃い顔を僅かに顰めた。実は忍び組で一番務めが長いのはこの男だという。城主の道楽の後片付けを続けてもう何年かになるこの男が城で長く勤めていられるのも彼の口が堅く、見て見ぬ振りが得意だからだった。今度も、知らんでいい、と一言言って押し黙った。
諸泉はつまらなそうな顔をしたが、用事も済んだと判断してひとつ頭を下げて、下っ端の役目であるところの掃除洗濯あたりの雑用に帰るため踵を返した。
そうして廊下を歩き始めて、それからふと思い出したように振り返る。

「そういえば組頭の姿が見えないんですけど、小頭知りませんか。」

小頭は、はぁと深く溜息を吐いた。ちらりと目線が元来た部屋の扉へ走る。小頭は口の堅い男である。それでも、些か目に余る悪趣味、例えば城主黄昏甚兵衛が自らに命じて、目を潰させて皮膚を油で焼かせた人間の身体を今でも時折眺めたがるのをなんとも思っていないわけではなかった。

「だから殿はご自分の悪趣味な造形物を時折部屋で眺めるのがお好きなんだよ。」
「…はぁ、どういう?」

城に仕えて十何年かの小頭は、万事を知りつくした老人の様な疲れた顔をして呟いた。
飽きないもんだ。あれがきて十年か。




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