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▽願望
おかしな夢を見た。利吉は子供の首を絞めている。夢のことであるから動機も何も定かではないのだが利吉は目の前の身体に圧し掛かって両手でぐいぐいと首を締め上げている。嗚呼、憎たらしい。殺してやろう。そう思って首を絞めている。
ところで首を絞められている相手はへらへらと笑い顔を浮かべ続けている。このへらへらしている子供は、小松田という。利吉の父が教師として籍を置いている学園で確か事務員をしている子供である。
利吉はこの小松田という少年についてよく知らない。
だから彼が利吉の夢の中に出てきたことも、自分が今その子供の首を絞めていることもとても不思議なことであった。小松田は喉が潰れるほど首を締め上げられながらへらへらと笑っている。
夢の外で利吉が学園を訪れると小松田はへらっと間の抜けた顔で笑いながら入門表にサインを求める。利吉はその小松田がへらへらしている顔しか見たことが無いから夢の中でも小松田が笑っているのは当然なような気がした。
汗が一滴、利吉のこめかみの脇を通って落ちた。
このまま両手に力を込め続けたら目の前の子供は笑いながら死ぬのだろうか。夢だと分かっていても気の毒だ。しかし目の前の少年はまるで人の良い顔を崩さないのである。
「いいんですよ。構いませんよ。」
利吉は小松田の首を離した。手を振り上げた。前歯が折れるほど強く殴っても小松田は笑っていた。おかしな夢だった。
明くる朝、利吉は真っ直ぐ学園に向かった。
正門の戸を叩いて、目的の人物にはすぐに会えた。
「サインを、」
間延びした声で小松田が言いかけたのとばしん、と高い音が響いたのが同時だった。ばしん、という音は利吉が小松田の頬を叩いた音である。小松田は手に入門表を握り締めたまま、首を叩かれた方向に傾けたまま暫く動かなかった。白い頬がじんわりと赤くなってくるころ小松田は首を利吉の方に戻して喚いた。
「い、痛いじゃないですか!」
利吉は小松田の顔をしげしげと眺めた。小松田は眉の間に皺を寄せている。丸い目に涙が浮かんでいる。唇を歪めて文句を垂れている。笑っていないことは確かである。
「良かった」
利吉は呟いた。
あまりおかしな夢を見たから、その意味を利吉は考えていたのである。
もしかしたら自分は忍びという仕事に罪悪感を持っているのではないだろうか。良く知りもしない相手に危害を加えたり殺したりするのを負い目に思っているのではないだろうか。そしてそれを誰かに許されたがったのではないだろうか。目の前の少年は如何にも人が良さそうに見えるし、そんな人間が自分を許したりする願望がおかしな夢を見せたのではないかと利吉は思ったのである。
利吉は小松田の顔を両手で挟んでぐい、と自分の方に上向けた。小松田は頬を殴られたばかりなので怖がってじたじたと暴れた。
「な、何するんですかぁ!」
小松田が喚いている。怒っているような怯えているような顔をして利吉を見上げている。利吉はその顔をよくよく目に焼き付けておこうと思った。こんな如何にも人の良さそうな少年だって、現実では理由も無く暴力をふるわれてへらへら笑ったりしないのである。許したりなんかしないのである。良かった、勘違いをせずに済んだ。利吉はそう思った。
おかしな夢は二度と見ないで済みそうだった。
「ごめんね、痛かったね。じゃあ私はこれで(にこっ+)」
「…利吉さん何しに来たんですか?」
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