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白痴2 (部下雑 現パロ。白痴雑渡さん2話)


▼白痴



2、月曜日、キッチンにて



とある戦乱の世に生まれた雑渡昆奈門という名の男は、悪名高いタソガレドキ城の忍び組頭で、俺はそんな彼の百人いる部下のうちで名前を諸泉尊奈門という。

というのが男の口から聞いた話だ。1K風呂付の俺の住処に包帯づくめの木乃伊のような男がひとり。包帯だらけの身体の上に俺の貸してやったTシャツがえらく似合っていない。ローテーブルの向いに座る男の前に、一寸食べてみたきりそこから全く口を付けないカップ麺が空しく湯気を立てている。正午。

「変な味だね。」
「口に合いませんか?」

食べられなくないけど食べたことの無い味だ、と返事があった。
忍者はカップ麺を食べない。それはそうだ。俺は、他になにか作りましょうと申し出て立ち上がった。
妙なことをしている。そういう気持ちが拭えない。この頭のおかしな男が俺を自分の部下だと信じるがまま、俺は男の妄想を壊さぬ様、甲斐甲斐しく部下諸泉尊奈門を演じている。キッチンへ向かいざま俺が視線をやると男はちょうどバラエティ番組の始まったテレビに目をぱちぱち瞬いて画面を緩く殴っていた。
本当に、妙なものを拾ってしまった。

最近は湯を入れるのにしか使っていないキッチンへ立って、流しの下の収納を漁る。確か去年の夏あたりに実家から送られてきた蕎麦の袋がいくつか残っていた筈なのだ。
すると暫くして、ひたひたと男がついてきた。テレビはもういいのか。隣へ来て屈む。服の袖を緩く引っ張るのは癖なのだろうか。俺はこの男の部下なそうなのだが、男の距離感の取り方はやけに親しく近く感じた。ねえ、と呼びかけられて軽く応える。

「尊奈門」
「はいはい、尊奈門ですよ」

妙なことを、と思っているくせに尊奈門と名前を呼ばれて応えることにも慣れ始めている。
俺がそうやって答えて振り向くと男の顔が間近だった。唇が、一瞬触れて離れた。思考も呼吸も一時活動を停止する。今あんた何をした。

「本当に?」

ぎくり、と心臓が跳ね上がったのは男に、お前は本当に尊奈門か、と疑われたからではなかった。俺はこのとき尊奈門という役どころが男にとってそういう対象であるのだとこのとき気づき動揺したのだ。今度は肯定するのに勇気がいった。好んで部下の身分を演じるのは俺の勝手だろうが、色事を挟む相手を偽り演じるのはなんだか非人道的だ。
男は、緩く首を傾げてこちらを見ている。包帯塗れで分からないが、多分顔の良い人間なのだ。すっと通った鼻先と見開いた猫目がじっとこちらを向いている。背中に汗が浮かんだ。ちくしょう、そんな顔で見るな。
俺は男の腰を抱き寄せた。口付けをした。してしまった。
俺は結局はじめからこの男に親切だったのでも同情したのでもなくこの男が気になっていただけだったのか。俺が自分の下心に思い至り絶望しているのを知りもせず、唇が離れると男は今度はしかと確信した様子で、尊奈門と俺のことを呼んだ。ええ、そうです。

「俺はあなたの部下で、あなたが好きです」

言ってしまった。つけっぱなしのテレビから観客がどっ、と笑うのが聞こえた。



10/5/6

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